コラム

予言者の起源であるシャーマンと精神医学・脳科学

 「予言者」とは、神の言葉を聞き、それを人に伝達する職業である。古来より、宗教者がその役割を担ってきた。
 今日、予言者と聞いて最も多く思い浮かべられるのは、ノストラダムスかもしれない。本職は医師であり占星術師であるが、「ノストラダムスの大予言」が世を騒がせたことから、預言者という印象を強く持たれる。ノストラダムスは16世紀の人物だが、21世紀の今日においてもなお、自称もしくは通称「預言者」は多く存在している。そんな預言者の起源は、旧石器時代のシャーマンにまで遡る。

【目次】
1.シャーマンの登場と、その役割
2.シャーマンの儀式
3.シャーマンと現代の精神医学
4.語源にみる預言者の様態
5.普遍的にみられるシャーマン

1.シャーマンの登場と、その役割

 シャーマンとは、ツングース語で呪術(シャーマニズム)を行う司祭者のことをいう。シャーマンはシベリアや中央アジアなどの狩猟採集社会に登場し、食糧の基本であった動物の供犠(【くぎ】:供物やいけにえを神霊に供えること)に携わっていた。

 狩猟を日常生活の基盤とする人々にとっては、自分たちが捕獲し、食した動物たちが再び地上に姿を現すか否かは、自分たちが生き延びていく上で重要な関心事項であった。当時の人々は、自分たちが狩った動物たちが絶滅することなく繰り返し地上に姿を見せるのは、次々に生まれ変わっているからだと考えていた。

 人々の関心は動物たちが再び姿を現すかという点にあったため、シャーマンたちは食した動物の骨を集めて、彼らが再び蘇るかどうかを占っていた。シャーマンの主な仕事は、動物の毛皮を身に付けて、死者となった動物たちのいる死の世界へ潜入し、そこで彼らの状態を確認してから再び生の世界へと戻って人々に報告することだった。

2.シャーマンの儀式

 

 シャーマンは供犠に際して動物の骨を装飾品として身に付け、呪文を唱える。骨の前で踊りながらよろめき倒れ、仮死状態に陥る。一定時間が経過すると目覚め、予言を始める。

 この一連の流れは、現代人から見ればペテンの一種だと考えられがちだが、単なる演技ではない。

 こうしたシャーマンの行動は、何かしらの薬草を用いた意識状態の変化によるものと考えられている。用いられた薬草は、シベリアや中央アジアに自生するベニテングダケなどの毒キノコといわれている。シャーマンは毒キノコの搾り汁などによって独特の意識変容を遂げ、演技ではなく、実際に仮死状態となる。

 シャーマンが動物の供犠を行う際、3つの外的変化を経る。最初に、シャーマンは薬草を摂取し、呪文を唱えたり踊ったりすることで薬物作用の出現を早める(1.前兆期)。続いて、よろめき倒れ、痙攣するなどの運動症状が現れ、意識障害に陥る(2.意識喪失期)。最後に、薬物の作用が消失することで再び意識を取り戻し、あたかも死の国から再び蘇ったかのように予言する(3.回復期)。

3.シャーマンと現代の精神医学

 シャーマンの儀式にみられる3つの変化は、現代の精神医学の領域に照らし合わせれば、ヒステリー性またはてんかん性の発作に伴う変化と類似している。すなわち、運動・知覚・自律神経などの異常症状が現れ、続いて運動症状や発作が現れる。そして、一定時間が経過するとその状態から回復し、目覚める。

 「憑依性精神病」も同様に、類似した経過を辿る。憑依とは、あたかも何らかの霊に取り憑かれたかのように通常の意識状態とは異なった意識状態となり、さまざまな精神運動症状が現れる現象をいう。かつては霊が取り憑いていると考えられていたが、現代ではこれも精神病理現象のひとつとして解釈されている。

 シャーマンや予言者が「神の言葉を聞く存在」であったのであれば、それは現代の精神医学の「幻聴」という精神症状に合致する。

 上述したように、シャーマンの幻聴もしくは幻覚は、儀式の際に使用した毒キノコのような薬草によってもたらされた能力と考えられている。また、そうした薬草を使用せずとも「声」が聞こえていたとするのであれば、それは何らかの内因性の精神病に伴う症状だったといえる。

4.語源にみる預言者の様態

 シャーマンが儀式の際に使用していたとされる毒キノコなどは、おそらくはアルコールと並ぶ最古の意識変容薬と考えられている。こうした薬物による変化は、精神病を意味する言葉との関連性が指摘されている。たとえば、サンスクリット語で「狂人」を意味する「パガラ(Paggala)」は、その語源がキノコを意味する古い語根の「ポン(poŋ)」と考えられている。すなわち、「キノコ」という言葉は「狂人」という言葉の基になっている。

 ヨーロッパで最古の文字言語のひとつである古代ギリシャ語には、狂気を意味した「マニアー(μανια)」という言葉がある。この言葉は現在の英語の「マニア(mania)」となって残っている。日本でも収集家を指して「マニア」と呼んだり「マニアック」などの言葉で“何かに執着し没頭する人”を形容している。
 古代ギリシャ語で狂気一般を意味する「マニアー(μανια)」の起源は、プラトンによれば「予言者(マニケー)」である。すなわち、「予言者」という言葉は、その儀式中の狂気ぶりから「狂気」という言葉の基になっている。

5.普遍的にみられるシャーマン

 シャーマンは、自身の魂が超自然界へ訪れるタイプの「脱魂(=魂が抜ける)型シャーマン」と、超自然的な存在が自身に訪れるタイプの「憑依(=魂が憑く)型シャーマン」とに大別できる。多くの場合、脱魂型シャーマンは男性が務め、その地位が高い。これに対して、憑依型シャーマンは女性が務め、その地位は低かったといわれている。

 研究によれば、シャーマンのように儀式の際に特殊な意識状態に入る職能者は、調査の対象となった47の社会のうち、43ヶ所で確認されている。すなわち、90%以上の社会で超自然的な世界や存在とコンタクトをとる文化がみられた。(ただし、脱魂型のシャーマンに限れば全世界の25%。)

 現代社会、とりわけ日本でシャーマンや預言者を名乗るとしばしば「ペテン師」とのレッテルを貼られがちだが、古来より、シャーマンは文字通り「命をかけた職業」であった。彼らが仮死状態となった儀式の最中に見たものや聞いたものは超自然的なものでなかったかもしれないが、少なくとも彼らはそれを信じ、死や生に畏敬の念を払い、心からの感謝の気持ちを持ったことは間違いないといえる。

【参考文献・参考サイト】
・精神医学の歴史(第三文明社)
・明治大学情報コミュニケーション学部 蛭川研究室「宗教と宗教的職能者」

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