脳と心の病一覧

001.アルツハイマー病
002.統合失調症
003.うつ病
004.認知症
005.パニック障害
006.パーキンソン病
007.自閉症スペクトラム障害
008.ADHD(注意欠陥多動性障害)
009.適応障害
010.てんかん
011.髄膜炎
012.アルコール依存症
013.PTSD(心的外傷後ストレス障害)
014.睡眠障害
015.引きこもり

001.アルツハイマー病



 病名は、最初の報告者であるアルツハイマー(A. Alzheimer)に由来する。高齢者に多い神経変異性疾患で、65歳以上での有病率は3~5%、80歳以上では約20%。若い年齢での発症ほど進行経過は速い。認知症疾患の中で最大の要因を占める。

|症状

 主な症状は記憶障害。障害は少しずつ進行していく。記銘力の低下ではじまることが多いが、礼節は保たれる。患者は記憶の障害を認めるが、重視はしない傾向にある。記憶の欠失をごまかす「取り繕い行動」をとることもある。病状が進行すると記憶障害だけでなく、失語、失行、失認、実行機能の障害なども加わり、最後は寝たきりになる。

 前駆状態としての軽度認知障害(MCI)は、物忘れはあるものの日常生活には支障がない状態を指す。早期のアルツハイマー型認知症では物忘れの自覚があるが、進行すると物忘れの自覚がなくなる。

【加齢による物忘れ】
→昨夜の食事メニューを思い出せないが、きっかけがあれば思い出す。

【軽度認知障害が疑われる物忘れ】
→食事をしたこと自体を忘れる。

|原因

 アミロイドβタンパク(Aβ)というタンパク質が大脳皮質に沈着して、老人斑(ろうじんはん)が出現することが原因と考えられている。老人斑が出現すると、シナプスでの神経伝達が弱まる。また、神経原線維の変性や、アセチルコリン作動性ニューロンの脱落によって脳が萎縮していく。萎縮は海馬からはじまり、側頭葉全体、頭頂葉へと拡がる。

 誘因としては、遺伝要因(アルツハイマー型認知症の家族歴)と環境要因(加齢、喫煙、高血圧、糖尿病、頭部外傷など)が複合した多因子型疾患と考えられている。
遺伝要因にはアミロイド前駆タンパク(APP)、プレセニリン1(PSEN1)、プレセニリン2(PSEN2)の変異、アポリポタンパク(ApoE)のApoE-ε4遺伝子などがある。

|治療法

 なぜアミロイドβタンパクが沈着するかは不明であり、根本的な治療法は開発されていない。しかし、進行を遅らせる薬はある。主な治療薬はコリンエステラーゼ阻害薬3剤の「塩酸ドネペジル」「ガランタミン」「塩酸リバスチグミン」や、NMDA受容体拮抗薬1剤の「メマンチン」。アルツハイマー病では脳内のアセチルコリンが減少するため、アセチルコリンの分解を抑制するコリンエステラーゼ阻害薬は神経伝達能力の向上が期待できる。

 薬を用いない治療法としては、運動や記憶訓練などが効果的という報告もあるが「明らかに効果が実証されたもの」はない。

 近年では原因であるアミロイドβタンパクを標的とする抗体をつくり、それを薬として使用する方法などが研究されている。また、アミロイドβタンパクが合成されるのを阻害する薬も開発中である。

002.統合失調症



 思春期を中心に若年で発病する疾患。人口の約1%に発病し、男女の差はほとんどない。非常に古くから認められているが、発症メカニズムは現在でも明らかでない。双極性障害(躁うつ病)と並んで内因精神病と呼ばれる。
 かつては「精神分裂病」と呼ばれていたが、「精神」が「分裂」するという言葉の持つ響きや「多重人格(解離性人格障害)」と誤解されるなど、精神疾患に対する偏見や差別を助長する原因となっていた。2002年8月、財団法人全国精神障害者家族会連合会(全家連)と日本精神神経学会での討議を経て、「統合失調症」に変更された。

|症状

 初期には意欲低下、感情鈍麻(どんま)、思考貧困などの症状が見られる。進行すると幻覚や妄想などの変調が現れ、ちぐはぐな発言やまとまりのない行動を起こすようになる。認知症状が見られることもあるが、意識障害や知的障害は起こらない。症状が慢性化すると人格変化が見られ、社会への関心がなくなり、自分の世界に閉じこもりやすくなる。
 症状は、陰性症状と陽性症状に分類される。

【陰性症状】
・意欲低下:やる気がでない。
・注意の低下:注意力が落ち、集中力が続かない。
・自閉的な生活:1日中寝てばかりで、外出する気力がなくなる。身だしなみもだらしなくなる。

【陽性症状】
・幻聴:悪口や自分の行動を実況中継する声などが聞こえる。
・被害妄想:誰かから狙われている、監視されている、尾行されていると感じる。
・考想伝播:自分の考えが知られてしまっている、他人の考えが読み取れると感じる。
・滅裂思考:頭の中が混乱しやすく、考えがまとまらない。

|原因

 原因は不明だが、患者の脳の左上側頭回(ひだりじょうそくとうかい)と両側紡錘状回灰白質(りょうそくぼうすいじょうかいかいはくしつ)の体積が減少しており、この減少率と重症度は関連があるとの研究がある。また、脳室の拡大や、海馬・扁桃体の萎縮も報告されているが、原因は明確になっていない。
 一卵性双生児か、両親ともが統合失調症の場合に約半数という高い確率で発症することから、遺伝的要因が関与していると考えられている。また、社会生活における過剰なストレスを契機に、神経伝達物質のバランスが崩れることで生じるとも考えられている。

|治療法

 抗精神病薬による治療が中心となる。かつてはフェノチアジン誘導体やブチロフェノン誘導体などの定型抗精神病薬が用いられてきたが、現在は副作用の少ない非定型抗精神病薬と呼ばれるセロトニン・ドーパミン拮抗薬が主流になっている。薬物療法の他、精神療法、リハビリテーション、電気痙攣療法などが行われる。
 現在では、寛解に至る例が多くなっている。20~30%の患者が治癒し、40~50%の患者で中程度の症状が持続するが、社会復帰が可能な水準まで回復する。20~30%の患者で治療困難で生活水準に重大な荒廃をきたす重篤な症状が続く。

003.うつ病



 基本症状は「抑うつ気分」と「興味・喜びの喪失」。どちらの症状も見られない場合は典型的なうつ病とはされない。外因性うつ病、内因性うつ病、心因性うつ病がある。生化学、画像検査などでうつ病の診断を確定することはできない。躁うつ病(双極性障害)と区別するために、単極性うつ病とも呼ばれる。
 うつ病の生涯有病率は5~15%で、女性は男性の約2倍。若年層に多いとされるが、日本では中高年でも頻度が高い。

|症状

 食欲の低下(もしくは亢進)、不眠(もしくは過眠)、精神運動制止(もしくは焦燥)、易疲労感(気力の減退)、無価値観、罪責感、思考力・集中力の低下、死についての反復思考を呈する精神疾患・気分障害の一種。幻覚・妄想といった精神病症状を伴う場合がある。

|原因

 原因は、完全には解明されていない。遺伝的素因のある人に、心的ストレスや身体要因が加わって発症すると考えられている。「外因性うつ病」は、脳腫瘍や側頭葉てんかん、の受け肝障害、パーキンソン病などの一般身体疾患や、薬物などの影響で二次的にうつ病の症状が現れる場合を指す。「内因性うつ病」は、「心因性うつ病」は、家族との死別などの過度の心理的負担が原因となって発症する場合を指す。発症しやすい性格としては、秩序を重視し、他者に尽くす傾向が強い「メランコリー親和型」が知られている。

|治療法

 治療は、「休養」「薬物療法」「精神療法」を行う。抗うつ薬は、セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質の濃度を増加させることでうつ状態を改善させる。

【旧世代抗うつ薬】
・三環系抗うつ薬:イミプラミン、クロミプラミンなど。
・四環系抗うつ薬:マプロチリン、ミアンセリンなど。

【新規抗うつ薬】
・選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI):フルポキサミン、パロキセチンなど。
・セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI):ミルナシプラン、デュロキセチンなど。

 三環系抗うつ薬は、抗うつ効果は強いが口渇、便秘、排尿障害、起立性低血圧、心血管系に対する毒性などさまざまな副作用が強く出やすい。
 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの新規抗うつ薬は、上記の副作用は少ないが嘔気や嘔吐などの消化器症状は現れやすい。

 薬物療法で治療した場合、約3ヶ月で改善が見られる。未治療でも6~12ヶ月で60~70%が改善する傾向にある。

004.認知症



 「認知症」は、特定の病気を指す病名ではない。何らかの原因で記憶障害を中心に、脳の機能障害が持続的に進行し、日常生活に支障をきたすようになった状態を指す。高齢になるほど、発症が多くなる傾向にある。有病率は65~69歳で1.5%。以降は5歳ごとに2倍になり、85歳になると約27%になる。

|症状

 持続して現れる中核症状と、それに伴って可逆的に現れる周辺症状がある。主な中核症状は記憶障害(もの忘れ)である。通常の加齢によるもの忘れでは「食べたものを忘れた」という“体験の一部の喪失”が主だが、認知症によるもの忘れでは「食べたことを忘れた」という“体験の全部の喪失”が増加する。中期症状になると場所や方角、身近な人物が分からなくなり、複雑な会話が困難となる。後期になるとほとんどの日常生活動作に介助が必要となる。最終的には会話ができなくなり、寝たきりになって衰弱や感染症などが原因で死に至る。

 中核症状としての記憶障害、見当識障害、失語・失認・失行の他に、周辺症状として行動面では徘徊、暴言・暴力、拒食・異食、自殺企図、介護の拒否などがある。精神面では妄想、帰宅願望、不安・焦燥、幻覚、睡眠-覚醒障害などがある。

|原因

 主に脳の病気や外傷によって生じる。原因は70種類以上に分類されるが、大別すると「変性性認知症」と「脳血管性認知症」に分けられる。

【認知症の原因となる病気や外傷】
◆変性性認知症
・アルツハイマー型認知症:脳の神経細胞が脱落し、脳全体が萎縮する。認知症の原因として最も多い。
・レビー小体型認知症:脳内に「レビー小体」という変性細胞が現れる。
・ピック病:脳の一部の神経細胞が「ピック細胞」に変性する。

◆脳血管性認知症
・脳血管性認知症:脳血管の異常により、神経細胞の機能障害をきたす。高血圧や脂質異常症、糖尿病などが危険因子。
・脳梗塞:脳血管が血栓によって詰まる。
・脳出血:高血圧などによって脳血管が破れて出血する。

◆その他
特殊なタンパク質の感染で起こる「クロイツフェルトヤコブ病」や、「ヒト免疫不全ウイルス(HIV)」が脳に感染して認知症になることもある。

原因によって症状や経過、治療法は異なる。高齢者の場合、退職や子どもの独立、家族や友人との死別、自身の体力や健康などの喪失体験が精神に大きな負担をかけることで生じるといわれている。

|治療法

 完治させる方法は、現状では見つかっていない。薬物療法によって周辺症状を抑えていくことが主な治療法となる。

005.パニック障害



 激しい動機や発汗、震え、呼吸困難などの不安発作を繰り返す。「このままでは死んでしまう」というような強い不安感に襲われる疾患。慌てて救急車を呼んでも病院に着くころには症状が治まり、検査をしても身体の異常はみつからない。この発作が次にいつ起こるかという不安に襲われ、日常生活に支障をきたす。100人に2~3人がかかるといわれている。パニック発作によって死ぬことはないといわれている。
 パニック障害を治療せずに放置しておくと、症状が悪化してうつ病を併発するケースや、不安から逃れるためにアルコール依存症となるケースがある。

|症状

 電車や人混みなど、特定の状況になると突然、動悸や発汗、震え、窒息感、めまいなどのパニック発作を起こす。発作は数分間続く。
 症状は、「パニック発作」「予期不安」「広場恐怖」の3つに分類される。

・パニック発作:
激しい動悸や発汗、頻脈などの身体的症状が突然現れ、「このままでは死ぬのではないか」という強い不安にかられる。発作は10分~30分ほど続き、長くても1時間ほどで収まる。

・予期不安:
パニック発作を何度か経験すると、「また起こるのではないか」という不安感に常に襲われるようになる。

・広場恐怖:
予期不安が続くとさらなる不安を生み、次に発作が起きたときに他人にみられることを恐れ、人が大勢いる場所や過去に発作を起こした場所を避けるようになる。

|原因

 明確な理由は判明していないが、精神的な問題ではなく、脳内で不安に関する4つの部位(大脳・大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)・青斑核(せいはんかく)・視床下部)が関係していることが分かっている。

・大脳:
精神や身体の活動を制御する脳の最高中枢。大脳で神経伝達物質のセロトニンが分泌異常を起こすと、パニック障害の回避行動(嫌な状況を避ける一時しのぎの行動)などが生じると考えられている。

・大脳辺縁系:
不安や恐怖などの原始的な感情を司る部位。大脳辺縁系でセロトニンが分泌異常を起こすと、強い不安を感じ続けると考えられている。

・青斑核・視床下部:
生存上の危機を察知すると、青斑核が神経伝達物質のノルアドレナリンを放出して視床下部に警報を送る。警報を受けた視床下部は心臓や血管、汗腺などに反応を伝える。これらの部位が誤作動を起こすことで、危険がないにもかかわらずパニック発作を引き起こすと考えられている。

 現在では、パニック障害は遺伝的な素因が基となり、ストレスが加わって発症し、脳の機能によって発作が現れると考えられている。

|治療法

 薬物療法と精神療法がある。
 薬物療法では、主にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が用いられる。効果がみられる場合、少なくとも1年は継続し、その後に使用量を減らし、中止していく。ただし、服薬中止の2年以内に30%程度は再発しているデータがあるため経過には注意が必要となる。
 精神療法では、誤った認知の歪みを修正する「認知行動療法」や不安時に対処方法を身に付ける「リラクセーション法」、または不安場面に少しずつ慣らしていく「暴露療法」などが有効とされている。

006.パーキンソン病



 アルツハイマー病に次いで多い神経変性疾患で、特有の運動障害が起こる。1817年にイギリス人医師のジェームズ・パーキンソンが初めて報告し、その名がつけられた。日本人の有病率は1,000人に1人で、発症年齢のピークは50~60歳代。

|症状

 初期症状として、左右のいずれかの手足に震えが現れる。その後、次第に運動や歩行が困難になり、やがて寝たきり状態になる。症状は数ヶ月から数年をかけてゆっくりと進行するが、個人差もみられる。
 主な症状として、安静時の震戦(意図しない震え)、筋強剛(手足の関節のこわばり)、無動・寡動(動作が遅くなる)、姿勢が不安定になる姿勢反射障害がある。

【ホーン・ヤールの重症度分類】
・Ⅰ度:
左右どちらかの手足に震えなどの症状がある。

・Ⅱ度:
左右両方の手足に震えやこわばりがある。

・Ⅲ度:
歩幅が小刻みになる。歩行中の方向転換が難しくなり、前のめりで突進することがある。

・Ⅳ度:
1人で立つことや歩くことができず、日常生活で部分的な介助が必要になる。

・Ⅴ度:
座っていることができず、ベッドに寝たきりになり、全面的に介助が必要になる。

|原因

 一時的要因は不明だが、中脳の基底核にある黒質が変性してしまうために起こることが分かっている。黒質には運動を制御する神経伝達物質であるドーパミンをつくる細胞がある。正常時はドーパミンが大脳基底核にある運動機能に関わる線条体ニューロンへ情報を伝えることで円滑な運動ができるが、黒質が変性するとドーパミンの量が減少して運動障害が生じる。ドーパミンの量が通常の20%以下になると、パーキンソン病の症状が現れるといわれている。

|治療法

 投薬治療によって症状を抑え込むことはできるが、根本的な治療には至らない。
 用いられる主な治療薬は、レボドパ。レボドパはドーパミンがドーパミンになる前の物質(前駆物質)で、服用すると脳内でドーパミンの欠乏を補う働きをして症状を抑える。副作用が多くみられ、長期間使用すると効果が弱まる。レボドパが効果的に作用するようにレボドパの働きを補助するドーパミン脱炭酸酵素阻害薬(DCI)の合剤が使われる。レボドパを長期間使用するとジスキネジア(時間とともに起こったり消えたりする不随意運動)や効果の低減などが起こるため、70歳以下で認知症がない場合はレボドパよりも作用時間が長いドーパミンアゴニストが第一選択薬になる。他にも、線条体アセチルコリン受容体をブロックしてドーパミンとのバランスを整える「抗コリン薬」や、線条体のドーパミン分泌を促す「アマンタジン塩酸塩」、ドーパミンの代謝を抑制する「MAO阻害薬」、レボドパの代謝を抑制する「COMT阻害薬」などの治療薬があり、症状によって組み合わせて使用する。

 根本的な治療法の確立を目指し、ドーパミンを生成する遺伝子を脳の細胞に導入する遺伝子治療や、多様な組織に成長する可能性を持つ幹細胞を用いて黒質の神経細胞を再生させる治療の研究などが世界中で行われている。

007.自閉症スペクトラム障害



 主な特徴は、対人関係が円滑に築けない点にある。自分の考えていることや感じていることを相手に伝えることができず、相手の考えていることを理解できない症状がみられる。自閉症には「自閉性障害」「小児期崩壊性障害」「アスペルガー症候群」の3つが含まれており、いずれに該当するかを診断することが困難なために1つの連続体(スペクトラム)として捉えられている。

|症状

 他人との通常の会話のやりとりができない、情動や感情を共有できない、他人に興味を持たないといったコミュニケーション能力に欠陥がみられる。習慣に頑なにこだわり、限られたものに対して強い執着心をもち、感覚刺激に対して並はずれた興味を示すことがある。症状は発達早期にみられるが、長らく気づかれないこともある。知能が高い場合には対人関係や環境に適応できるので、大人になるまで障害が分からないこともある。一般的に、学生であれば決められたことを守り、知識を覚えて再現できれば優秀と判断されるのに対して、社会人になると自ら問題点や課題をみつけて年齢や生活環境の異なる他者と協調し、解決していくことが求められる。そのため大人になってから障害の問題にぶつかりやすくなる。

|原因

 精神的なストレスではなく、脳の器質的要因による先天性の障害である。障害と脳の関係は明確になっていないが、側頭葉や前頭葉下部、扁桃体などが関与していると考えられている。

|治療法

 特定の薬物治療法は存在しない。治療は主に、自分の症状に気づくことで行動を修正する認知行動療法が有効とされている。

008.ADHD(注意欠陥多動性障害)



 授業中に教室内を歩き回ったり、集中できずに窓の外ばかり眺めてしまうような子どもが該当する可能性があると考えられている。学齢期の子どもの3~7%がADHDといわれている。
 かつてADHDは子どもの障害と考えられており、大人になれば改善すると考えられていたが、仕事での単純なミスや買い物での衝動買いなど、成人後も一部の症状が残ることが確認されている。

|症状

 発達年齢に見合わない注意欠陥や多動性、衝動性などの症状が7歳ごろまでに現れる。主な症状は3つ。集中力が欠ける「注意欠陥」、じっとしていられずに常に手足を動かす「多動性」、動作や行為を抑えられない「衝動性」である。3つのうち、複数の症状が現れることが多い。ADHD患者の30~50%が学習障害(LD)を合併していることが知られている。有病率は、子どもで5%、成人で2.5%。

・注意欠陥:
勉強や遊びに長く集中できず、すぐに気が散る。課題を順序立てて進めるのが難しい。

・多動性:
じっと座っていられず、もじもじしたり手足をぶらぶら動かしたりする。静かにしなければならないときに急に動き回る。

・衝動性:
列に並んで順番を待つのが難しい。他の人がしていることを遮ったり、邪魔をしたりする。

|原因

 親のしつけや本人の性格の問題でないことが多く、脳の機能異常によって起こる。発症には遺伝的要因があり、ADHD患者を親に持つ子どもはそうでない子どもよりも発症率が高くなる傾向がある。一卵性双生児の1人が発症した場合、もう1人もADHDになる確率が高くなるという報告がある。
 脳の機能障害によって引き起こされることは分かっているが、詳しくは解明されていない。仮説としては以下のようなものがある。

【ADHDの原因と考えられている仮説】
・前頭用のワーキングメモリーの機能不全:
ワーキングメモリ(作業記憶)は、例えば黒板の文字をノートに書き写す際に一時的に文字を覚えておく場合に働く。この機能が働かないことで、感情や行動を制御できなくなるといわれている。

・大脳基底核の血流低下:
大脳基底核の血流量が少なくなると、反射的な反応を抑制する働きが作動しにくくなるといわれている。

・ドーパミン作動性ニューロンの機能異常:
前頭連合野でドーパミンを放出する神経細胞に異常があり、ドーパミンの量が適切でなくなるため、注意欠陥や多動などの症状が現れるといわれている。

|治療法

 本人や家族、学校(職場)にADHDの本質を説明し、非難と称賛のバランスを改善することが治療法となる。心理教育や環境調整でADHDの症状の解決が難しい場合は、薬物療法を行う。
 薬物療法では、神経細胞のシナプス間隙で放出されるドーパミンの量を増やしたり、ドーパミントランスポーター(ドーパミンの再取り込み口)による再吸収を阻害したりする「メチルフェニデート塩酸塩」などが用いられる。メチルフェニデート塩酸塩は覚せい剤に似た構造を持っているため、12歳ごろまでに服用を終えるのが一般的である。

009.適応障害



 明確に特定することのできるストレス因子への反応として起こる情動面あるいは社会的・職業的な行動面の症状。他の障害やその悪化によって説明できない状態を指す残遺カテゴリー。明確なストレスから3ヶ月以内に症状が現れ、日常生活に支障をきたす。仕事や学業が疎かになるため、周囲から「怠けている」と誤解されることもある。

|症状

 抑うつ症状や不安感、焦燥感が現れたり、普段とは異なる行動をとることがある。大災害や犯罪、戦争など、非日常的な出来事のあとに不安感やフラッシュバック、不眠などが現れることもある。症状が1ヶ月以上続くとPTSD(心的外傷後ストレス障害)になる。

|原因

 離婚や失業、重い病気、親しい人との死別などの不幸な出来事が原因となるだけでなく、進学や就職、転勤や結婚など、人生の新たな一歩を踏み出すときの環境の変化によって生じるストレスが原因となることもある。一般的に、几帳面で真面目、ストレスへの適応能力が弱い人がかかりやすいといわれている。

|治療法

 確立された治療法がなく、休養やストレス因子の特定と解消、カウンセリングが有効となる。本人の気持ちや考えを聞いた上で、ストレスの原因を特定し、本人にそれを自覚させてから解消できるように手助けをしていく。

010.てんかん



 突然発作が襲う脳の慢性疾患。全身の痙攣を起こして失神するため、昔は心霊現象だと勘違いされることもあった。
 てんかんは、興奮の広がり方によって2種類に大別される。1つは神経細胞の興奮が脳の一部で発生してから少しずつ広がる部分発作で、異常な興奮が起きる範囲は小さい。もう1つは脳全体が一気に興奮状態になる全般発作で、脳のほぼすべての部分が過剰興奮の影響を受ける。全般発作による症状である意識消失や、痙攣のように震える間代性発作、または手足が硬直する強直性発作がてんかんの発作として一般的に知られてる。

|症状

 脳のどの部分で発作が起きるかによって、症状はさまざま。手の動きを司る運動野で発作が起きれば手が痙攣し、視覚を司る後頭葉で発作が起きれば視野障害が現れる。発作が1回で終わらず、2回以上繰り返すのが特徴。

|原因

 脳内の神経細胞の過剰興奮が原因で起こる。脳の神経細胞は、通常は興奮と抑制の調和をとりながら活動している。その調節役を果たしているのが、抑制性の神経伝達物質であるγ-アミノ酪酸(GABA)である。GABAの濃度が極端に低下すると、抑制力が弱まって興奮する力が強く働く。抑制力を失った脳内の神経細胞では過剰興奮が起こり、膨大な電気信号が送られて筋肉の痙攣や硬直、失神、意識障害などが起きる。

|治療法

 抗てんかん薬による薬物療法が有効。抗てんかん薬はGABA受容体に作用するものなど数種類あり、発作のタイプによって使い分けられる。適切な薬物療法によって約80%が改善するといわれている。抗てんかん薬は長期間にわたって服用するため、さまざまな副作用も現れる。
 てんかんでは、食べ過ぎや飲み過ぎ、寝不足や過労などが発作を誘発することがある。の改善のためには、生活リズムを整えることも重要となる。

011.髄膜炎



 脳や脊髄を包み込み、保護している髄膜がウイルスや細菌などに感染して炎症を起こす病気。
 ヒトにとって最も重要な器官である脳は、正常時は完全な無菌状態に保たれている。しかし、免疫力のない新生児や、大人でも病気で免疫量が弱まったときなどに、普段は入れないはず病原菌が脳内に侵入することがある。

|症状

 激しい頭痛、発熱、吐き気、倦怠感、首筋が硬直して曲がらなくなるなどの症状が現れる。悪化すると意識障害や痙攣を起こし、命に関わることもある。小児の場合、初期の症状は風邪と間違えやすいため注意が必要となる。

|原因

 ウイルスが原因となって引き起こされるウイルス性髄膜炎(無菌性髄膜炎)と、細菌が原因となって引き起こされる細菌性髄膜炎(化膿性髄膜炎)がある。
 多くの場合、身体のから病原菌が入り、血液に乗って髄膜まで到達して発症する。また、事故などで頭に怪我を負うことで感染することもある。風邪や中耳炎、肺炎、麻疹(はしか)などの合併症としてもみられる。

|治療法

 病原菌が判明すると、適切な抗生物質を投与して治療にあたる。

012.アルコール依存症



 飲酒に起因する健康問題や社会問題が個人に集積した状態。仕事や家族、趣味などよりも飲酒を優先させる症状を指す。50~60%が遺伝要因と考えられており。男性に多く、壮年期から高齢期に多くみられる。

|症状

 軽~中等度の症状では手指振戦、発汗、不眠、嘔気、嘔吐、下痢、心悸亢進、不安等の自律神経症状や精神症状がみられる。重症になると禁酒1日以内に離脱けいれん発作や、金主語2~3日以内に振戦せん妄がみられることがある。
 随伴症状として、肝臓障害をはじめとするさまざまな身体障害や、うつ病・不眠症などの精神障害が合併する。

|原因

 遺伝要因も考えられるが、家庭環境などの環境因子も大きく、飲酒をすれば誰もが患う可能性がある。
 アルコール依存症を患うと、思考や理性を司る前頭葉が萎縮する変化がみられる。萎縮することで「飲酒したい」という欲求を抑えることが困難となり、アルコールの摂取が繰り返されることになる。

|治療法

 回復のためには断酒継続が必要となる。入院しなければ飲酒が立ちきれない場合などには、入院治療が必要となる。入院治療は、①解毒治療、②リハビリ治療、③退院後のアフターケアの3段階に分けられる。治療では教育や集団精神療法などの心理社会的手法が中心となる。

013.PTSD(心的外傷後ストレス障害)



 戦争や大災害などを体験したり、犯罪に巻き込まれたりすることによって受けたトラウマ(心的外傷)が原因で現れる症状。1ヶ月以上にわたって症状が続く場合をPTSD(心的外傷後ストレス障害)と呼ぶ。あらゆる年齢層にみられ、男性よりも女性に多い。一生のうちにPTSDになる割合は1.1%~1.6%だが、20代~30代前半では3.0~4.1%となっている。

|症状

 パニック発作や頻脈、発汗、紅潮などの自律神経症状をともなう。代表的な精神症状としては以下のものがある。

・侵入症状:普通な記憶の再体験
・陰性気分:幸福や満足、愛情を感じない
・回避症状:トラウマの原因と密接に関係する苦痛な記憶や思考、感情の回避
・覚醒状態:不眠やイライラ、強い不安

 精神症状以外では、対人関係の変化(生活範囲の制限、社会との信頼の喪失)などをともない、社会的・職業的な機能の障害を引き起こす。

|原因

 震災などの自然災害、傷害犯罪、性犯罪、事故、戦争被害のような、危うく死ぬ、もしくは重症を負う、またはそれを目撃したといったトラウマ体験が原因となる。他の精神疾患と異なり、明らかな原因の存在が規定されている。
 PTSDの患者の脳では、扁桃体の血流量の増加(過活動)、および海馬の堆積の縮小がみられる。この異常が、恐怖の記憶を強めたり、消えるのを防いだりしてPTSDを発症させている可能性があると考えられている。

|治療法

 一般的な治療として、精神療法と薬物療法がある。精神療法では、トラウマ体験を表現させて感情を吐き出させたり、症状の対処法を学んだりする。動揺の症状がある患者を集めてグループ両方を行うこともある。薬物療法では、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が第一選択となる。
 治療を受けることによって、患者の30%が完全に回復、40%に症状が軽度に残り、20%に中等度に症状が残る。10%で改善が乏しいというデータがある。

014.睡眠障害



 睡眠に関連した疾患を総称したもの。寝ることができない不眠症や、寝すぎてしまう過眠症のいずれも睡眠障害とされる。代表的な症状としては、昼間の覚醒しているべきときに激しい眠気に襲われる「ナルコレプシー」などがある。

|症状

 睡眠障害の症状には、以下のようなものがある。

・不眠症:
夜間睡眠の量・質に異常が生じる。

・過眠症:
夜間睡眠が十分量得られているにもかかわらず、日中に眠気を呈する。

・概日リズム睡眠障害:
睡眠のタイミングが社会生活の望ましい時間帯からずれ込む。

・睡眠時呼吸障害:
夜間呼吸停止を繰り返す。

・睡眠時運動障害:
睡眠中に不随意な異常運動が現れる。

・睡眠時随伴症:
意識障害下で異常行動が生じる。

|原因

 環境的な要因や精神的な要因がある。環境的な要因としては、いわゆる時差ボケや自宅以外での宿泊といった環境や生活リズムの急激な変化が挙げられる。精神的な要因としては、学校や家庭、職場でのトラブルや私生活での失恋などがある。また、コーヒーやアルコール、ステロイド薬などの物質が原因となることもある。

|治療法

 病態に応じた薬物療法もしくは生理学的治療が必要となる。不眠症を対象とした睡眠薬や過眠症治療のための精神刺激薬、生体リズム変位のための光治療、睡眠時呼吸障害治療のための鼻腔持続陽圧呼吸や口腔内装置などが主な治療手段。他にも、リラクゼーション訓練などの精神療法や心理療法が有効である。

015.引きこもり



 定義には複数あるが、①6ヶ月以上の社会参加(就学・就労、あるいは家族以外の親密な対人関係)がなく、②基礎疾患がない、という点は共通している。性別比では男性が約80%を占めている。患者には、他人の評価への過敏さや強迫傾向が共通してみられる。

|症状

 長期間にわたって自宅に閉じこもりがちになる。

|原因

 保護者の離婚や失職などの家庭事情、本人の病気や健康状態、いじめやストレス、不登校や就労の失敗などがきっかけとなる。

|治療法

 長期化とともに社会恐怖、強迫行為、家庭内暴力、希死念慮などの精神症状が合併しやすく、精神医学的治療や家族相談、訪問相談を含む支援が有効となる。

◇参考文献
●『現代精神医学事典』(弘文堂)
●『精神神経疾患ビジュアルブック』(学研プラス)
●『これならわかる!精神医学』(ナツメ社)
●『ぜんぶわかる脳の事典』(成美堂出版)
●『こころの健康診断』(ニュートンプレス)
●『脳と心』(ニュートンプレス)
●『脳と心のしくみ』(新星出版社)
●『心理学概論』(ナカニシヤ出版)

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