コラム

朝食を抜くと脳や健康にどのような影響を与えるか【欠食の脳科学】

 忙しい毎日の朝、身だしなみに気を遣ったり、もしくは二度寝をして朝食を抜くということが日常になっているかもしれない。また、年頃の女性であればダイエットの一環として、朝食を食べずに家を出ることも少なくない。国民健康・栄養調査によると、朝食を抜く人の割合は20代が最も多く、男性で37%、女性で23.5%に上る。

 朝食の役割は、空腹を満たすだけではない。脳科学の観点から考えると、朝食がいかに重要であるかが分かる。

【目次】
1.朝食の役割
2.理想の朝食
3.朝食と脳にまつわる調査結果
4.朝食の影響は一生に及ぶ

1.朝食の役割

 朝食を抜くと、脳や心に悪影響が生じる。当人の感覚では「お腹が空いた」程度の認識かもしれないが、欠食の主な症状としてはイライラや集中力の欠如、または作業量の低下などがある。こうした症状は、脳のエネルギーが不足していることが原因で生じる。

 脳の活動は、ブドウ糖がエネルギーに変換されて行なわれる。ブドウ糖は、脳の平常時の唯一のエネルギー源である。それほど重要なブドウ糖だが、ブドウ糖は体内に大量に貯蔵しておくことができないという特徴を持つ。それゆえ、直ぐに不足してしまう。

 ヒトの脳は深夜の睡眠中も稼働しているため、朝の脳は、エネルギーを欠いた状態である。不足したエネルギー分を埋めるべく朝食を摂らなければ、脳のエネルギーが不足し、集中力や記憶力が低下する。

 不足したエネルギーを補うための食材は多種多様だが、その中でも特に効果的なのは白米(ご飯)である。白米は粒食のためゆっくりと消化・吸収され、なだらかに血糖値を上げて長時間維持される。こうした理由から、白米は脳にとって非常に安定したブドウ糖の供給減となる。

 朝食を抜いてエネルギー不足のまま学校や職場にいくと、脳が機能しないだけではない。エネルギー不足ゆえに、身体が重く、だるさや疲労感が生じる。調査によると、朝食を必ず食べる子どもほど「だるさを感じる割合が少ない」傾向がある。身体のだるさは気力の低下につながるため、朝食を抜くことで学力に悪影響が生じる可能性が高くなる。
 朝食をほとんど食べない子どもは就寝時間が遅く、朝になかなか起きられずに身体の調子が悪い割合が高くなる傾向がある。さらに、朝食を食べない場合は夕食の時間が不規則になり、その内容も偏る傾向がみられる。他にも、夕食後の間食が多く、1日の生活リズムが不規則になっている傾向もある。これらの結果から分かるように、朝食を抜くことによる脳と身体の不調は、一日にわたって続く。

2.理想の朝食

 従来の研究では、脳の活動にはエネルギー源となるブドウ糖があれば十分と考えられていたが、最新の研究では脳細胞を活性化させるには多くの栄養素が必要であることが分かっている。朝食の観点に置き換えて考えると、糖質中心のおにぎりやパンだけでは不十分であり、おかずを足すことでようやく脳が十分に活動できることになる。
 朝食のメニューと脳の認知機能の関連性を調べた研究によれば、「洋定食」「おにぎりのみ」「朝食抜き」の順番で、脳の認知機能が高まることが分かっている。

 白米(ご飯)に含まれるブドウ糖の他に脳や身体にとって好ましい栄養素としては、ビタミンB群に属する「コリン」や、必須アミノ酸の「リジン」が挙げられる。
 コリンは認知機能に深く関係する神経伝達物資のアセチルコリンの材料となる成分で、牛乳や卵、大豆、レバーなどに含まれている。リジンは脳の疲労回復や集中力の向上に期待されている成分で、カツオやマグロ、若鶏肉などに含まれている。青魚やマグロなどの魚油に多く含まれるDHAには、脳組織のシナプス可塑性をサポートする働きがある。DHAを摂取することで、集中力や判断力、処理能力を高めて脳を活性化する効果があると考えられている。また、特に成長期にDHAを摂ることで、脳の健全な発育が促進される。

 脳が白米のブドウ糖を有効に活用するためには、上述したコリンやリジンを組み合わせることが望ましい。理想の朝食の献立は、納豆や豆腐、卵黄や乳製品などの組み合わせである。たとえば、ご飯と豚汁、サラダ、納豆である。卵や大豆製品には、記憶力や注意力の向上が期待される成分である「レシチン」も含まれている。大豆にはマグネシウムも含まれており、消化や代謝を促進させる効果がある。なお、朝食をパンのみで済ませることも多くみられるが、パンよりもご飯のほうがブドウ糖の血中濃度が長く保たれるため、脳を活性化させやすい。

3.朝食と脳にまつわる調査結果

 朝食の有無が脳にどのような影響を与えるかに関しては、上述した以外にもさまざまな調査結果がある。
 たとえば、主食にパンを食べている子どもよりも白米を食べている子どものほうが、脳の神経細胞が集まる「灰白質」が大きく、その違いは幼少期よりも中学生、高校生、大学生と、成長していくにつれて大きく広がっていくことが分かっている。
 こうした差は、パンと白米のGI値(グリセミック・インデックス=食後の血糖値の上がり方を示す指数)の違いから生じているのではないかと考えられている。白米のGA値は70~80であるのに対してパンのGA値は97~98であり、パンのほうが急激に血糖値を上げる。アメリカで行われた調査では、GI値が低い食事をとるほど身体が発達するということが分かっており、脳に関しても同様のことがいえるのではないかと考えられている。

 全国の小中学校を対象とした文部科学省の調査では、「学力」「50メートル走」「持久走」「シャトルラン」の全ての項目で、朝食を食べる頻度が高いほどパフォーマンスが高い結果が出ている。

 東北大学加齢医学研究所と農林水産省が共同で行った調査(大学生400名、35~44歳の大卒会社員500名)では、朝食とさまざまなパフォーマンスの関連性が明らかになっている。たとえば、毎日欠かさず朝食を食べる学生のほうが第一志望の大学や就職先に進む比率が高く、社会人になってからの年収も高くなる傾向がみられた。  具体的には、朝食をほぼ毎日摂り続けた人の5割以上が第一希望の大学に入学しているのに対して、朝食を必ずしも毎日摂らなかった人の約3割は偏差値44以下の学部にしか入れていなかった。また、朝食をほぼ毎日摂り続けた人の約6割が第一希望の会社や団体に就職できたのに対して、朝食を必ずしも毎日摂らなかった人の約3割が第三希望以下の会社や団体にしか就職できなかった。年収別にみると、朝ごはんをほぼ毎日とり続けた人たちは高収入層に集まりやすく、朝ごはんを毎日は食べていなかった人たちは低収入層に集まりやすい傾向があった。

 別の調査では、認知症患者の半分以上を占めるアルツハイマー病は、食材や食べ方で多くの部分が予防できるとの報告もある。朝食を抜いている場合は認知機能が低下しやすく、寝たきりにもなりやすいことが分かっている。

4.朝食の影響は、一生に及ぶ

 朝食を摂らない若者が多い昨今だが、欠食によって生じる悪影響は、その日の脳や身体だけでなく、学力や就職にまで及ぶことがさまざまな研究で分かっている。また、アルツハイマーへの影響も示唆されていることを考えると、朝食の有無は、まさにヒトの一生を形づくるものであるといえる。

【参考文献・参考サイト】
・厚生労働省「朝ごはんと食べないと?」
・国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所「「健康食品」の安全性・有効性情報」
・大塚製薬「糖質だけでは不十分!脳を活性化するバランス朝食」
・みつばち健康科学研究所NEWS「DHA+EPA」
・ベネッセ教育情報サイト「脳と体にうれしい朝食習慣」
・PRESIDENT Online「脳の活性化「炭水化物だけ」はNG、カギは朝食にあり」
・AERAdot.「朝食を抜くと「脳が萎縮」する?一日三食のススメ」
・Life’sDHA「オメガ3が脳機能を活性化させる仕組みとは?」
・glico「集中力アップも期待できるアミノ酸、リジンとは」
・オーソモレキュラー栄養医学研究所「レシチン(フォスファチジルコリン)」
・子育て世代がつながる 東京すくすく「脳の働きをよくする朝ごはんって、どんなメニュー?」
・週刊女性PRIME「あの“脳トレ”の川島隆太教授が力説!脳を見てわかった「頭のよい子の朝食、教えます」」
・認知症ねっと「北欧の研究でわかった、コリン不足の人ほど認知力が低い。認知機能維持の視点でも注目!」

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