コラム

意識とは何か ―脳科学最大の謎に迫る―

 「意識とは何か」

 この問いは、誰でも一度は考えたことがあるかもしれない。意識は全ての人にありながらも、それでいて誰もその正体を知らない。意識に関して紹介するさまざまな書籍やサイト、論文などがあるが、それらを通じて「意識は何であるかを完全に理解した!」という人はいない。

 ここでは、そんな誰もが気になりながらも、決して結論に到達していない「意識」について、脳科学の観点から迫る。

身近な例から「意識」を考える

 「意識」が何であるかの説明を求められると戸惑う人も多いが、「意識じゃないもの」を考えろと言われれば、それは決して難しくない。たとえば、石には意識がないというのは多くの人が直感的に理解できる。同様に、鉛筆や消しゴムにも意識がないことは容易に理解できる。これに対して、自身や友人・知人には意識がある。これも誰もが感覚的に理解していることである。

 それでは、それ以外のものについてはどうだろうか。石には意識がないのと同様に、草にも意識はないといえる。反対に、ヒトに意識があるのと同様に、チンパンジーにも意識らしいものはあると考えられる。

 次に、ミカヅキモやユーグレナはどうだろう。ミカヅキモは接合藻類、ユーグレナは鞭毛藻類であり、いずれも「単細胞生物」である。これらは草よりも人間やチンパンジーに近いが、意識があるといえるだろうか。もしも単細胞生物であるミカヅキモに意識がないのであれば、多細胞生物であるミジンコはどうだろう。ミジンコに意識がないなら、オキアミはどうだろう。ダンゴムシ、カブトムシ、エリマキトカゲ、ウーパールーパー、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌはどうだろう。

 例をイヌまで進めると、多くの人が「意識はある」と答えるかもしれない。それと同時に、石、ミカヅキモからネコ、イヌまでを追って考えたことで、意識は「オンかオフか」の二択で語れるものではなく、「全くない~完全にある」という連続性の中で語られるものであることに気づく。すなわち、「石には意識が全くなく、ヒトには完全にある。そしてその間の動物には、大いにあったり少ししかなかったりだ」という認識に至る。

「なぜ脳にだけ意識があるのか」という疑問

 なぜ脳にだけ意識があるのかという疑問は、多くの人が一度は考えたことがあるかもしれない。この疑問は、実は半分正解で、半分不正解である。

 詳しくは後述するが、脳の中で意識を生み出すのは大脳のみであり、小脳は意識を生み出さない。つまり、小脳は“丸ごと”切除されても、ヒトの意識はそれまでと変わらずに存在し続ける。(※小脳摘出手術を受けた患者は、意識レベルに変化がないことが報告されている)

 一方で、大脳は少しでも傷がつけばすぐさま意識に影響が生じる。場合によっては意識不明になる。このことから、上述した「なぜ脳にだけ意識があるのか」という疑問は、大脳に関しては正解だが、小脳に関しては不正解といえる。ヒトの意識は、大脳のみが生み出すのである。

 ちなみに、意識を生み出す大脳にある神経細胞は約200億個だが、意識を生み出さない小脳にある神経細胞は約800億個である。意識を生み出す大脳のほうが、神経細胞の数は少ない。言い換えれば、意識の有無(強さ)と脳内の神経細胞の数は、全く関係がない。

意識のない小脳は、何をしているのか

 もしかすると、「脳=意識」という認識が多くの人にあるのかもしれない。しかし上述したように、脳のなかでは大脳が意識を生み出し、小脳は意識を生み出していない。

 ここで疑問となるのが、「なぜ小脳は意識を生み出さないのか」と同時に、「小脳は何をしているのか」である。小脳が意識を生み出さない理由は後述するとして、ここでは小脳が何をしているのかについて述べる。

 小脳は、主に体の位置情報や感覚情報を大脳に送る役割を果たしている。たとえば、原(げん)小脳である前庭(ぜんてい)小脳は、体の平衡、特に体軸の維持に関わっている。また、古小脳である脊髄小脳は、運動の際に体幹や四肢の筋力の緊張を調整したり、姿勢の維持に関わっている。

 こうした小脳の役割を一言で、具体的に述べると、「体で覚える」という表現が分かりやすい。自転車の訓練や楽器の練習など、開始当初は意識して体の動きを調整していたものが、いつしか慣れによって、無意識のうちにできるようになる。こうした“慣れ”と“無意識”こそが、小脳の持つ役割である。また、近年の研究では小脳は体で覚える学習だけでなく、思考における学習にも関わることが分かっている。すなわち、手足を使った練習だけでなく、頭の中の思考を繰り返すことによっても、“慣れ”や“無意識”による一定の動きが可能となる。

 上述したように、小脳は意識に関わらないことから、例えば手術などで切除しても意識には影響を与えない。しかし、その後の日常生活は激変することになる。これまで小脳が“慣れ”として“無意識”のうちに処理していたものが、全て“不慣れ”となって“意識”によって制御されなければならなくなる。

 目の前のコップを取るという単純な動作であっても、まずはコップの場所を意識して利き腕を伸ばし、コップの前で腕を止め、五本の指を意識しながらコップを掴む。コップと触れたところで指先に力を入れ、力を抜くことなく腕全体を体に引き寄せる。小脳があれば“慣れ”と“無意識”で処理されていた動作のひとつひとつを、常に意識して行わなければならなくなる。それは自転車やピアノの初心者よりもゆっくりかつ意識が求められる動作で、決して慣れることはない。

 小脳は意識を生み出さないが、これほどまでにヒトの日常生活には不可欠なのである。

大脳が生み出す、「意識」とは何か?

(順次公開予定)

【関連記事:脳の基本構造ー各部位の名称と機能についてー)】

関連記事

  1. 差別するヒトの脳。原因や歴史を知る。【差別の脳科学】
  2. 人は、どこまで“誰か”になれるのか。【ファッションメイクの脳科学…
  3. 笑顔が与える心理的効果とは?
    「美人」を生み出す表情の脳科…
  4. 言葉の心理学~言葉が印象・記憶・判断に与える影響について~
  5. 脳の発達の38週間~受精から誕生まで~
  6. 母国語が異なれば思考も異なる。
    日米中韓4ヶ国語の比較にみ…
  7. 脳の疲れの原因は“デフォルト・モード・ネットワーク”
    『α…
  8. なぜ親は子を溺愛し、虐待するのか【親と子の脳科学】
PAGE TOP