コラム

脳の成長の80年~生後0日からみる、年齢別の脳の変化~

 ヒトの新生児の特徴は、他の哺乳類に比べて自立性が低い状態で生まれてくるという点にある。多くの哺乳類は生後すぐに自力での移動が可能であり、自力で生存できる能力を有している。これに対してヒトの新生児は自力での移動ができず、養育者なしで生きていくことができない。こうしたヒトの新生児の未熟さは、未熟な状態で生まれることによって多様な刺激にあふれた外界にて、環境や経験によって大きく変化していく可能性を持って生まれたとも解釈することができる。
 以下では、ヒトが産まれてからの脳の成長について、年齢を追ってみていく。

■新生児期・乳児期(出生後~12ヶ月)

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新生児
 出生時の新生児の脳の重さは、約400gである。これは、成人の脳の重さである1,200g~1,500gの1/3~1/4に相当する。なお、新生児の体重が約3,000gであるのに対して成人の体重は約60kgであることから、新生児の体重は成人の1/20程度となっている。

 新生児・成人それぞれの体重に対する脳の重さの割合を見ると、成人の場合は体重に占める脳の重さが約2~2.5%であるのに対して、新生児の場合は全体重に占める脳の重さの比率は約13%である。このことから、脳の基本的な部分(いわゆる能力面ではなく構造面)は他の体の部位と比較して成熟していることが分かる。

|生後5日:母子相互作用の開始

 母親の声や香りに対してのみ、特別な反応を示すようになる。こうした認識の区別により、新生児は母親に甘えることを覚える。そして、新生児から求められるようになった母親は母親としての自覚を持ち始める。このような関係は、『母子相互作用』と呼ばれる。

|生後2週:微笑みの開始

 次第に微笑むようになり、日を追うごとにその頻度が増す。また、母親が話しかけると微笑み返すようになる。

|生後2ヶ月:コミュニケーション・原会話の開始

 他者に能動的に関わるようになる。他者の目を見つめ、微笑みを自ら返すようになる。自分の体をどう動かせば他者から期待すべき反応が引き出せるかを予想した双方向的なコミュニケーションが始まる。
 うれしい、かなしいといった情動のやりとりも可能となる。こうしたやりとりは一般的に、“原会話”と呼ばれる。

|生後3ヶ月:発声の開始

 母親が話しかけると、喜びながら声を出すようになる。また、リラックスしたときには喉の奥から『クーイング』と呼ばれる音声を出すようになる。

|生後1週~3ヶ月:原始反射の発達

 出生後3ヶ月の間は主に延髄や橋(きょう)の一部で神経発達がみられ、反射的な行動がみられるようになる。なお、新生児だけにみられる反応は『原始反射』と呼ばれる。原始反射の種類には、『モロー反射』や『吸綴(きゅうてつ)反射』などがある。モロー反射とは、大きな音が聞こえたときに、両手を広げて抱きつくような動作をする反射である。吸綴反射とは、口に入ってきたものを強く吸う反射である。たとえば、空腹時に母親を求めて母乳を飲むような反射が該当する。

|生後4ヶ月:中脳の神経発達

 中脳の神経発達がみられるようになる。神経発達が中脳に達すると原始反射は少しずつ減少し、『立ち直り反射』が生じてくる。立ち直り反射とは、たとえば体を傾けたときに真っ直ぐな姿勢に戻ろうとする反射である。こうした反射は、大人が意識的に行うのに対してこの時期の乳児は反射的に行っている。また、この時期になると支えられることで座れるようになる。

 さらに、意識的に物へ手を伸ばすようになる。掴む際の動作は、手のひらを対象にかぶせるような形となる。また、物を握り合ったり引っ張ったりするなど、物を介したやりとりがみられるようになる。なお、この段階では乳児の注意は物か他者のいずれか一方に限定される。すなわち、この段階では乳児は物と他者を同時に意識することができない。

|生後6ヶ月:平衡反応・自我・喃語の発生

乳児
 大脳の神経発達がみられるようになる。大脳皮質の神経発達が始まると、体のバランスをとって姿勢を保つ『平衡反応』が生じるようになる。また、つかまり立ちや伝い歩き、歩行といった複雑な行動が可能となる。この時期になると、原始反射は概ね消失する。

 また、自我と個性の発達がみられるようになる。自身の要求に応えてもらえないことや、新たにできるようになったこと(たとえばお座りなど)をさせてもらえないことに対する不満が、『泣く』という形で表現される。さらに、恐怖心も芽生えるようになる。たとえば、見知らぬ人に話しかけられ場合や、兄・姉が叱られたのを見た場合に泣き出すようになる。

 言語の面では、『ダーダーダー』や『バーバーバー』のような、明確な意味はないものの何らかの意図を伝えようとする、複数の音節を持つ『喃語』がみられるようになる。

|生後8ヶ月:単純な統計や確率の理解

 知能に著しい発達がみられ、単純な統計や確率であれば理解できるようになる。生後8ヶ月の乳児が確率を理解している様が確認できた実験として、次のような実験がある。

 生後8ヶ月の乳児に白と赤の玉を4:1の割合で入れた箱を見せ、そこから5個の玉を取り出す。取り出す際には、『赤玉4つ、白玉1つ』の組み合わせであるパターンと、『白玉4つ、赤玉1つ』の組み合わせであるパターンの2パターンおこなう。
 なお、乳児は驚いた際に対象物を長く眺める傾向があるため、白玉の方が4倍多く入っている箱から無作為に取り出した5つの玉のうち4つが赤玉である場合に、驚きの感情があれば長く眺めることになる。
統計・確率実験
 この実験の結果、乳児は赤玉4個と白玉1個の組み合わせを見たときの方が、白玉4個と赤玉1個の組み合わせを見たときよりもその状況を眺める時間が長かった。)
 この実験では、その後に赤玉と白玉の割合を逆にするなど、設定を変えたさまざまな実験から別の理由(赤ちゃんは赤い玉に興味があるなど)を模索したが、そのような仮定は否定されている。(すなわち、この実験結果が示す結論が正しいことを意味している。)

|生後8~9ヶ月:シナプスの密度の最大化

 大脳にある、視覚情報を処理する視覚野で神経細胞の繋ぎ目であるシナプスの密度が最大となる。シナプスの数はその後、数年間で60~70%程度にまで減少していく。

|生後9ヶ月:視線追従・社会的参照・共同注意などの発達

 他者とのやりとりの変化が目立つようになる。また、嫉妬の感情をみせるようになる。
 母親が何かに対して注意(注目)していることを理解できるようになり、母親が注目している物を目で追う『視線追従』がみられるようになる。また、見知らぬ物や出来事に出くわしたとき、母親とそれを交互に見比べるようになる『社会的参照』がみられるようになる。さらに、自分の興味ある物や出来事を指さし、母親の関心をそちらに引き寄せようとする『共同注意』もみられるようになる。

この時期になると、それまでの“他者(母親)あるいは物との二項的なやりとり”に加え、他者(母親)の視点を通した物との関わりがみられるようになる。すなわち、『三項関係(他者-物-乳児)に基づくやりとりがみられるようになる。たとえば、母親が玩具を振って楽しそうにしている表情を見ることで、『これは面白そうなものだ』と認識できるようになる。つまり、他者(母親)を通して物(玩具)について知ることができるようになる。
 身体的な変化としては、つかまり立ちができるようになる。

|生後10ヶ月:『対象の永続性』の獲得

 乳児の目の前に、注意を引きつける物(対象)を置いてハンカチで隠した場合、ハンカチを取り払ってその対象を取ろうとする。これは、対象が見えなくなっても存在し続けること(対象の永続性)に乳児が気付いたためである。これに対して生後8ヶ月の乳児の場合は、対象がハンカチで覆われた途端に興味を失う。

|生後11ヶ月:因果関係の理解と記憶

 『箱に物を入れて振る』→『音が出る』などの因果的な事象の連鎖を理解し、記憶することができる。なお、この時期では『ウサギの頭に帽子を載せる』→『ウサギに餌を与える』のような因果的でない事象に関しては記憶しておくことができない。

■幼児期(1歳~6歳)

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幼児
 乳児期を超えると、自己中心的ながらも言語と思考の両面で他者の視点の理解が進み始める。

|生後12ヶ月:向社会的行動の発現

 出生時に約400gだった脳は、約800gにまで成長する。身長は約75cm、体重は約9kgとなり、それぞれ出生時の1.5倍、3倍となる。

 この時期になると意志や感情の伝達手段として言葉を用いることができるようになり、泣く回数が減少する。また、“他者の利益のために、外的報酬を期待することなく自発的意図的になされる行動”である『向社会的行動』がみられるようになる。具体的には、苦痛状態にある他者(大人)を見た場合に悲しい表情をするだけでなく、その他者を撫でたり触ったりするような身体接触行動を取るようになる。

 身体面では、親指と人差し指を使って小さなものをつまむことができるようになる。また、一人歩きも可能となる。

|生後12~15ヶ月:共同注意や喃語の変化

 共同注意を基に、指差しによって要求を表現したり、大人の注意を指さしの方向に向けたりするようになる。また、喃語が『一語文(『ママ』など)』に変化する。こうした一語文は1つの単語ではあるものの、文脈に応じて要求や疑問などの意図を表す『文』としての意味を持つ。

|生後15~18ヶ月:独立心や頑固さの発生

少しずつ芽生えてきた独立心や頑固さが自身の感情や言葉の未熟さとぶつかり合う発達段階に達し、それが原因となってかんしゃくを起こすようにもなる。

|生後18ヶ月:他者の好みの理解

 他者が自分と異なるものを求めている場合に、それが分かるようになる。こうした幼児の変化は、以下の実験から確認されている。

 実験では14ヶ月児と18ヶ月児にブロッコリーが入った器とクラッカーの入った器を見せ、それぞれを食べておいしそうな顔と不味そうな顔をしてみせた。その後、幼児に対して実験者がブロッコリーとクラッカーのいずれかを『私にくれる?』と尋ねると、18ヶ月児は自分用にクラッカーを選んだ場合でも、実験者がブロッコリーをおいしそうに食べたときはブロッコリーを渡した。
他者の好みの理解
 これに対して14ヶ月児は、常に実験者にクラッカー(=自分の好み)を渡した。この実験の結果から、18ヶ月児は相手の好みを推測できると結論付けられる。

 また、この時期になると“絵”が何かを表しているに過ぎないことを理解できるようになる。それ以前までとは違って絵に描かれたものを掴もうとすることはなくなり、絵を指してその名前を言ったり、周囲に人に名前を聞いたりするようになる。これに対して生後9ヶ月の乳児の場合は、物が写ったカラー写真を置くと手を伸ばして写真の中に写った物を掴もうとする姿がみられる。

 この時期にみられる他の変化としては、より強い向社会的行動をとる点があげられる。実験者が困った表情を幼児に見せると、幼児は心配そうな顔をして実験者を見たり、自分のおもちゃを持っていったりするようになる。また、もしもそうした働きかけが失敗に終わった場合、他の方法で働きかけるといった計画的な行動も取るようになる。

|生後20ヶ月:統計や確率に基づく推測の発達

 統計と確率を基に、人の好みを推測することができるようになる。このことは、以下の実験によって確認されている。

 カエルのおもちゃとアヒルのおもちゃがたくさん入った箱を2つ(カエルとアヒルの比率が4:1の箱と、1:4の箱)用意して、実験者が箱から5個のおもちゃを取り出した後、テーブルの上のおもちゃの中からどれか1つを実験者に渡すよう幼児に頼んだ。カエルのおもちゃが多く入った箱からカエルをたくさん取り出した場合は幼児が選ぶおもちゃに特定の傾向は見られなかったが、カエルのおもちゃが多く入った箱からアヒルばかりを取り出した場合は、幼児はアヒルを選んで実験者に渡した。
統計と確率からの推測
 この結果から、幼児は『実験者が確率的に低いアヒルを選んだのは、アヒルが好きだったから』と判断したと推測される。

|生後24ヶ月:二語文の習得

 使用できる語彙が増加し、300前後の語彙を使えるようになる。発語に関しては、『ママ、取って』のように2語の組み合わせが可能となる。(二語文)
また、この時期になると鏡に映った自己を認識できるようになる。

|生後24~36ヶ月:自我の芽生えと向社会的行動の拡大

 自我が芽生え始める。さまざまな事柄を『自分でやりたい』と主張するようになり、親に反抗するよう姿もみられるようになる。
 向社会的行動がより頻繁に、巧みになる。他者がなぜ苦痛を感じているのかの原因を理解し、他者が望む方法でなぐさめようとするようになる。また、他者をなぐさめるためにおもちゃをあげる場合は、自分の好きなおもちゃよりも相手の好きなおもちゃを渡した方が効果的だと理解できるようになる。

|生後1~3年:神経細胞の過密化

 生後3年で、脳の重さが約1,000gになる。
 生後1~3年にかけては、脳内の神経細胞どうしの繋がりが過剰なものとなっているため、乳児・幼児はひとつの情報の入力に対して必要以上の出力を行うことになる。たとえば、指を一本だけを動かすという情報(指令)を指に送っても、神経細胞どうしが過密に繋がっているために他の指も同時に動く場合がある。こうした理由から、乳児・幼児は細かな動きができず、常に大雑把な動きしかできない状態となる。ジャンケンでチョキができないことなどはこの例の一つである。なお、神経細胞の繋ぎ目であるシナプスの数は生後1~3年前後まで増加の傾向にあるが、その後は過剰に生産されたシナプスのうち不要なものが削除されていくことから減少の傾向をみせる。こうした変化は、事前にシナプスを過剰に形成した後に必要に応じて減少させていく方式をとることで周囲の状況に敏感に対応できることから生じている。

 ヒトの脳にある神経細胞は、1,000億個以上といわれている。この数は、成人でも乳児でも同様である。それにもかかわらず乳児が成人と同様の行動ができないのは、神経発達が未熟なためである。
 神経発達は、主に二つに大別することができる。ひとつは、神経細胞が情報を伝える際に用いる軸索が脂肪の鞘(=髄鞘)で覆われる髄鞘化によって機能を発揮する変化を指す。もうひとつは、神経細胞どうしが情報を受け渡しするために不可欠なシナプスが形成されていく変化を指す。
 生後3年までには、ヒトの基本的動作に関する部位の髄鞘化が完成する。そして3歳以降になると、長期記憶に関連する大脳の前頭連合野や前頂連合野、側頭連合野などの髄鞘化が進む。一般的に3歳以前の記憶がないのはこうした理由からである。

|生後3年(1):象徴的思考の発達

三歳児
 『象徴的思考』の発達により、ミニチュアの部屋と実物の部屋の関係が理解できるようになる。このことは、以下の実験によって確認されている。

 ある部屋のミニチュアをつくり、犬のぬいぐるみをミニチュアの部屋の中に隠すところを幼児に見せる。そして幼児に『大きな部屋の同じところに大きな犬が隠れている』と伝え、犬のぬいぐるみを探すよう指示する。
ミニチュア
 2歳半児の場合、実物の部屋で大きな犬のぬいぐるみを探そうとしたが、ミニチュアの部屋の中でどこに犬のぬいぐるみがあったかを覚えていたにも関わらず、実物の部屋の中でどこを探せばよいかが判断できなかった。これに対して3歳児の場合、ミニチュアのソファの後にミニチュアの犬のぬいぐるみがあるのを見ると実物の部屋に入るなりソファの後ろを探した。
 このことから、2歳半児はミニチュア模型から得た情報を実物の部屋に当てはめることができないが、3歳児になると模型と実際の部屋の関係を理解できるようになることが分かる。

|生後3年(2):因果関係の理解

 単純な因果関係が理解できるようになる。これは、次のような実験の結果から結論付けられる。
 左右のそれぞれにビー玉を入れる入口があり、中央におもちゃの出口がある仕掛けをつくる。そして、幼児に『左の入り口からビー玉を入れる』→『中央の出口からおもちゃが飛び出す』→『右の入り口からビー玉を入れる』という一連の流れを見せる。その後、幼児にビー玉を渡して『おもちゃが飛び出しように入れてみて』と伝えると、75%の幼児が左の入り口からビー玉を入れた。
 この結果から、生後3年ほどになると結果と原因の因果関係を推論することができるようになることがわかる。

|生後3年(3):行動面における自己概念の形成

 『私は毎日、ご飯を食べる』『私は早く走ることができる』のような、『○○する』『○○ができる』といった行動面での自己概念が形成され始める。

|生後4年:神経伝達物質に関する変化

 この時期になると、脳内では主に二つの大きな変化が生じ始める。ひとつは神経伝達物質に対する反応の変化であり、もうひとつは神経伝達物質の変化である。
 神経細胞は、神経伝達物質として『GABA(γアミノ酪酸)』を分泌する。これに対して、GABAを受け取った他の神経細胞は電気信号を発生する。この活動が繰り返されることで、発生する電気信号が抑えられるようになる。そして、電気信号が抑えられることによって神経細胞の活動も抑えられ、必要以上に情報が拡散することが防がれるようになる。こうした現象は、神経細胞内にある“塩化物イオンを細胞外に送り出す役割を果たすたんぱく質”である『KCC2』が成長とともに増加することによって生じる。すなわち、KCC2が増加することによって神経細胞内の塩化物イオンが減少し、その結果、神経細胞内のイオンバランスが変化し、GABAを受け取った際の反応が変化することになる。

 もうひとつの変化は、神経細胞の発達にともなった伝達物質であるGABAが『グリシン』へと切り替わる変化である。グリシンはGABAと比較して効果が短いため、反応時間をより細かく制御することが可能となる。すなわち、神経伝達物質としてグリシンが用いられることによって脳内のネットワークが活動するタイミングの精度が増すことになる。
 こうした変化を経て不要な神経細胞の繋がりが解消され、ひとつの情報(入力)に対してひとつの出力が可能となる。

 思考面では、他者が自分の心と異なる独自の心の世界を持つことを理解するようになる。これにより、対人的なやりとりも複雑になっていく。また、他者の心理的理解が可能になり、遊びを中心とした友達との関わり合いを通じて、道徳性や社会性を学んでいくようになる。

|生後4年(1):生物現象と物理現象の区別と理解

 生物現象と物理現象を区別し、それぞれの性質を理解できるようになる。たとえば、植物を含む生物全般は、時間の経過にともなって固有性を保持しつつも成長という変化を遂げていくことを理解できるようになる。また、テーブルやイスのような物理的事物にはこうした変化がないことも理解できるようになる。
 体の再生に関しても生物固有の現象であることを理解し、動植物は軽度の傷であれば自然と新しい組織をつくりだし、時間が経過することで傷を治癒することを理解できるようになる。これに対して、テーブルやイスは修理のような人為的介入がない限りは時間が経過しても治癒・回復・再生することがないということも理解できるようになる。

|生後4年(2):強い知覚依存性

 4歳頃までは、外界の知覚的(=視覚や感覚的)側面に注意を払い過ぎる傾向がみられる。このことは、次の実験から確認されている。

 同じ数のおはじきをA列、B列の2列に並べ、幼児に見せる。両列のおはじきの数が同じであることを幼児に確認させた後、幼児の目の前でA列のおはじきの間隔を広げる。
おはじき
 このとき、A列はB列よりも長くなるが、おはじきの数に変化はない。しかし、4歳頃までの幼児はA列のおはじきが多くなったと答えやすい。これは、列の長さという知覚的(=視覚)に顕著な特徴に影響を受けて判断を誤るためである。

|生後4年(3):主観的世界と客観的世界の同一視

 生後4年児の特徴のひとつとして、主観的世界と客観的世界の区別が明確でない点があげられる。この年代の幼児には、『リアリズム(実在論)』や『アニミズム(汎心論)』という特徴がみられる。
 リアリズムとは、主観的世界に属する対象に客観的属性があると考える特徴を指す。たとえば、夢で見た内容や自身の脳内で考えた内容が実際に存在していると考えるといった特徴である。
 これに対して、アニミズムは客観的世界に属する対象に主観的属性があると考える特徴を指す。たとえば、生物以外の“物”も生きており、意思や感情があると考える特徴である。『月が自分(=私)のことを好きで、私を追いかけてくる』と考える行為などが例としてあげられる。

|生後4~5年:周囲の人々への言及

 脳の重さが約1,200g程度となり、成人の80%程度になる。脳は出生後に神経細胞が樹状突起や軸索を伸ばして大きくなることはあっても、原則的に細胞分裂して数を増やすことはない。細胞分裂しないにもかかわらず脳の重量が増加するのは、主に神経細胞を支えたり髄鞘の基となるグリア細胞が分裂して増えるためである。

 認知や思考の面では、『私には弟がいる』『私には友達がたくさんいる』など、自分と周囲の人々の関係に言及することができるようになる。

|生後3~6年:想像力の強化

 実際に(=物理的に)呈示されていない人や物や事象について考えることが可能となる。また、いわゆる『延滞模倣』や『ふり遊び』が言語発達において観察される。
 延滞模倣とは、対象(モデル)の行動を見た後、一定の時間が経過した後におこなう模倣を指す。たとえば、テレビ番組でヒーローの活躍を観た後日にその模倣をおこなう場合がこれにあたる。なお、モデルの行動を見た直後におこなう“即時模倣”とは区別される。

 また、表面的な事柄が変化しても物の本質は変わらないことに気付き始める。たとえば、皮を剥く前のリンゴと皮を剥いた後のリンゴは同じものであることを理解できるようになる。すなわち、同一性の理解が可能となる。さらに、人や物を意味のあるカテゴリーに分類することが可能となり、数えることの原則を理解する。

 他にも、現実と空想(客観と主観)の区別が可能となり、他者が誤った認識を抱くことも理解できるようになるため嘘がつけるようになるといった特徴があらわれる。

■児童期(6歳~12歳)

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児童
 話し言葉だけの世界から書き言葉を含む世界に入ることで、行動範囲が広がる。自己中心性が減少し、単純な論理的思考が可能となる。

 生後4年頃に答えられなかったおはじきの課題では、A列とB列のおはじきが同じと答え、その理由を聞かれた際に『長さを元に戻せば同じになるから』と答えられるようになる。これは、頭の中で事柄の状態を元に戻すこと(=思考の可塑性)が獲得されたことが要因となっている。
 また、異なるカテゴリーや次元の事柄を同時に考えられるようになる。たとえば、4本のチューリップと6本のカーネーションがあったとき、『“花”とカーネーションのどちらが多いか』といった課題に回答できるようになる。

|生後5~7年:他者の心の理解の発達

 社会的規則に従うことが快につながるようになる。また、家族以外の集団に参加するようになる。集団での仲間関係を通じて、他者の心を読む(=他者の意図や欲求・感情を理解する)能力が向上する。
 また、仲間関係が強くなることで『自己効力感』が発達する。自己効力感とは、ある状況や課題に直面した際に、自身がその状況や課題を効果的に処理できるという自信や期待を指す。集団に参加し、仲間関係の中で他者との競争や比較を経験することで、自身の効力(=能力)を知ることになる。

|生後6~8年:独り言の変化

 児童の独り言に変化がみられるようになる。児童の独り言は、10歳以下の場合であれば状況によっては発話の20%~60%を占めることもある。

 児童は、社会の成熟した他者とコミュニケーションを交わすことによって最適な行動を習得し、物事を考えることを学ぶ。
 児童が大人や自分よりも能力の高い仲間の指導がなければ達成できない課題や問題について指導者(=大人や自分よりも能力の高い仲間)から話を聞くと、話の内容を自身の独り言に取り入れ、独力で課題や問題を解決するためにそれを利用しようとする。児童は独り言によって自身の行動を方向付け、新しい技術や能力を習得し、不慣れな状況を乗り切ろうとする。なお、新しい課題や問題に直面した児童は、理解できない問題がどのようなものなのかを声に出す。こうした理由から、児童は独り言を話すようになる。
 こうした独り言を話す際、児童は与えられた状況についての既知の事柄を表す単語や字句を省略する。すなわち、まだ自分が理解できない事柄のみを口にする。そして、その課題や問題を解決するために必要な認知的操作を十分に習得した段階で、児童は言葉を『言う』のではなく『考える』ようになる。こうして、児童の理解力が高まるにつれて独り言は内心での発話として次第に内面化され、減少していく。

 なお、アメリカで行われた実験では自己誘導的な発言(=独り言)を頻繁に行う1年生は、2年生になると算数の成績が上昇したことが確認されている。また、そうした2年生は3年生になると算数をさらに容易に理解したことが確認されている。

|生後9年(1):感受性期の到来

 神経細胞の繋ぎ目であるシナプスは1~3歳にかけて急激に増加した後、減少の傾向をみせる。こうした“神経回路を柔軟に変化させて土台を完成させる時期”は、『感受性期(臨界期)』と呼ばれる。能力や機能によっては、この時期を過ぎると発達しにくくなる。ヒトの場合、9歳頃に多くの能力や機能面で感受性期を迎える。

 なお、ヒトには『前頭前皮質』と呼ばれる特有の脳領域があり、集中・計画・効率的な作業といった役割を司っている。こうした能力は幼年期の長期に渡る学習に基づいて形成され、この領域の形成が完成するまでには20数年かかることもある。幼児や児童は前頭前皮質の制御が不十分であるが、その不十分さには一定の利点がある。
 前頭前皮質は、無意味と判断される考えや行動を抑制する役割を果たす。この点、乳児や幼児、児童は前頭前皮質による抑制がないため、大人と比較して考えや行動の自由度が広く、自由な探索活動が可能となる。
 こうした創造性や探究心、柔軟な学習能力は、大人になるにつれて計画的かつ効率的に行動する能力の獲得と引き換えに失われていく。これは言い換えると、大人になって獲得した迅速な自動処理能力や、余分な神経接続が削除された脳のネットワークがもたらす効率的な行動に役立つ資質は、ときに柔軟性や創造力の発揮の妨げになる場合があることを意味する。

|生後9年(2):『9歳の壁』

 小学校3~4年生以降になると、学校での学習内容が高度化していくために授業についていけない児童が増えていく。教育現場では、これを『9歳の壁』と呼んでいる。国語では高い読解能力と作文能力、算数では分数・小数・比率などの理解などが主な課題となる。また、理科では電気や磁力といった目に見えない抽象的な思考力が必要とされるようになる。こうした学習内容の高度化により、1~2年生では個人差があまり見られなかった学力の差が高学年になると拡大していくことになる。

|生後9~12年:規範や規則の理解

 規範や規則の背景にある意味や意義を理解するようになり、集団的な活動に主体的に関わったり、共同作業をおこなったりするようになる。また、大人が示した規範だけではなく、自分たちで規則をつくり、守ろうとするようになる。なお、その一方で理想主義的に自分の価値判断に固執するような態度もみられるようになる。
 社会的行動としては、クラスの中で特定の仲間たちと閉鎖的な集団をつくるなど、自身の選好による集団を形成するようになる。また、集団の中で自身の意見を持たないまま仲間の言動や行動に同調する姿勢もみられるようになる。さらには、そうした集団どうしで争いが生じる場合もある。

■青年期(13歳~19歳)

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青年
 青年期では、身体的な発育や変化が急激に起こるようになる。知能面では、抽象的思考力や科学的推論の発達がみられるようになる。

|生後13年:思考力の発達と、ホルモンバランスの変化

 抽象的な事柄についても論理的に思考できるようになる。たとえば、実行する前の考察や、事実と異なる可能性についての考察が可能となる。また、複数の可能性を想定し、それぞれの可能性を順序立てて検討するといった秩序だった思考も可能となる。

 思春期になると、感覚などに関わる『頭頂葉』や『側頭葉』では神経回路の再編成が終わる。これに対して、思考や創造性を担い、複雑な認知行動を制御する『前頭前野』の再編成は継続する。思春期の青年が判断力を欠いたり感情的になったりするのは、こうした要因が関連している。

 思春期には休止していた精巣や卵巣の活動が再び始まり、男性ホルモン(アンドロゲン)や女性ホルモン(エストロゲン)などの性ステロイドホルモンが分泌される。これによって体毛の発生や声変わりといった体の性別化が起こるだけでなく、脳にも一定の変化が生じる。脳内で性ステロイドホルモンが作用するのは、主に恐れや怒りなどの情動を司る扁桃体や、自律神経系の交感神経・副交感神経機能を司る視床下部をはじめ、中脳、橋、延髄など、進化の早い段階で獲得されたいわゆる『古い脳』と呼ばれる部分である。この作用によって、性腺(精巣・卵巣)の機能をはじめ、食事量や攻撃性など面で男女の差が生じることになる。
 性ステロイドホルモンは、恐れや怒りなどの情動を司る扁桃体に作用することで青年の攻撃性を高める。また、性ステロイドホルモンが腹内側視床下部に働きかけてグルタミン酸の分泌を増加させることでも攻撃性を高める。なお、こうしたホルモンの影響によって攻撃性が増すのは主に男性であり、女性の場合は性行動や出産に影響を与えることになる。

|生後13~15年:自意識の高まり

 自意識が強まり、自意識と実態との違いに葛藤する姿がみられるようになる。特定の仲間集団での人間関係が重視され、親や教員との関係は希薄になっていくことが多い。仲間集団の中で特有の言語を用いたり、仲間どうしの評価を強く意識するようになる。こうした自意識や仲間意識から、親や教員に対して反抗期を迎えるようになる。

|生後16~19年:性差の意識や、大人との関係の変化

女子高生
 次第に互いの性差を意識するようになる。特定の対象に強い憧れを抱くことや、告白によって友人以上の関係になることもみられるようになる。青年期の恋愛・交際を通じて自己理解を深めることで、不明瞭な自我を補強しようとする姿勢もみられるようになる。

 思考面においては、より高度な思考が可能になる。たとえば、これまで絶対的に捉えていた物事を相対的に捉えることができるようになる。また、自身の思考を他者の思考と相対的に比較することができるようになり、自身の思考の矛盾や誤り、相違に気付くようになり、葛藤するようになる。さらに、その中で見出した矛盾や葛藤を自覚し、解決しようとする姿勢もみられるようになる。青年期においては、周囲の人に対してだけでなく自分に対しても批判的な見解を抱きやすくなる。そして、そうした状態を解決するために矛盾や葛藤に向き合わざるを得なくなる。

 高度な思考が可能となる一方で、“自身の関心”と“他者の思考の対象”との分化ができず、青年期特有の『自己中心性』と呼ばれる思考特徴を有するようになる。自己中心性とは、自身が関心を持つ対象は、他者も同様に関心を持っているものであると認識する性質である。なお、多くの青年にとっての最も強い関心の対象である自身に誰もが注目しているだろうとして、『想像上の観客』をつくり上げる傾向がみられるようになる。

 青年期になると、今という時間が過去と未来と連続性を有するものであるという時間感覚を強く持つようになる。こうした時間的な広がりを伴う思考は、現在の否定性が未来へとつながるものとの認識を抱かせるようになる。たとえば、高校や大学への進学、または就職といった選択が迫られる中で、『自身には何ができるのか』『自身は今後どのようにして生きていくのか』といった、自身の未来に関わる問題を現実的な課題として抱くようになる。すなわち、未来に対する不安と現在の問題とが合わさり、否定的な感情が時間的広がりを伴う人生の問題へと発展していく。

 また、青年と大人の関係は、それまでの“児童と大人”という関係から変化する。青年の思考の発達も伴い、かつて絶対的であった大人の位置は相対化なものとなり、それまで無自覚的に同一化してきた大人の価値観も批判の対象となる。なお、青年期に直面する進路選択や人間関係における課題は、親や教師といった大人の価値観や理念・信念に同一化したままでは解決できないことが多い。そのため、青年期になるとそれまで同一化していた価値観を疑う必要に迫られ、自身の価値観や理念・信念を問い直す必要が生じる。自身が拠り所としていた価値観を変化させることが求められるようになるため、自身がどのような人間であるのかということが不明瞭になることもある。
 こうした課題に取り組む過程で、青年は友人の価値観や理念・信念を参考にして、それまでの価値観や判断基準を否定したり再認識したりすることで新たな価値観を再構築し、親からの自立を果たすことになる。

 青年期には、自身を取り巻くさまざまな様相が変化する。こうした変化に対する不安を共有し合う仲間として、そして成長しつつある自身を映す鏡として、同世代の人間関係は非常に重要となる。青年は人間関係の中で互いに影響し合い、個別の人格を持った青年者どうしで人生観や世界観を共有し合う関係へと移行する。こうして、青年は成人を迎えることになる。

■成人期(20歳~)

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女子大生
 児童期に感受性期を迎えて以降も神経細胞はつながり続け、成人期に入ると脳神経のネットワークが概ね完成する。もっとも、それ以降も学習や経験によって脳神経の新しいネットワークは形成され、脳は成長を続ける。このように脳が生涯に亘って変化する性質は、脳の『可塑性』と呼ばれる。ヒトでいえば高齢の熟練した職人の技術などが、脳の可塑性によって獲得された能力であるといえる。

|生後20年~50年:流動性知能の発揮

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 成人から生後50年ほどの間に、ヒトの『流動性知能』はピークを迎える。流動性知能とは、情報の記憶に要する速度や容量に関係する能力であり、学習や経験の影響をあまり受けない、いわば情報を処理するために用いられる知能を指す。また、情報を迅速に理解する能力や、新たな技術や環境に適応する能力でもある。すなわち、新しいことを学習して素早く正確に問題解決をおこなうための能力である。こうした流動性知能が高いほど、新しい物事を学習して環境に適応するが可能となる。
 かつて流動性知能は生後20年頃にピークを迎えるといわれていたが、近年の研究では特定の統計的手法を用いると生後50年頃まで向上するというデータも確認されている。

|~生後60年:結晶性知能の蓄積

 流動性知能が生後20年~50年でピークを迎えるのに対して、『結晶性知能』は生後60年ほどでピークを迎える。結晶性知能とは、これまでの経験や学習によって蓄積・構造化された知識を用いて課題を処理していく能力である。こうした結晶性知能はそれまでの生涯を通して積み重ねられてきた知識や判断力や慣習であり、単なる知識を超えた問題解決に活かせる能力である。場合によっては、生後60年を超えても緩やかな向上がみられる場合もある。
 熟練の職人は多くの経験から“技”を身に付け、最適な方法で問題を処理する能力を有する。これは、学習や経験の蓄積が活かされる結晶性知能の一例といえる。

|生涯を通じて

 ヒトは成人後も人生の中で得たさまざまな経験や知識を脳に蓄えることで、脳内のネットワークをカスタマイズしていく。こうした脳の可塑性は、個人の可能性を広げる。
 生まれた直後は遺伝子によって定まる先天的な能力が個々の能力となるが、脳に可塑性があることにより、ヒトは出生後の学習や訓練によって後天的に能力を高め、先天的な不利を覆していくことが可能となる。こうした脳の可塑性は、生物進化の過程においても有利に作用してきた。生物の歴史を振り返ると、可塑性の高い動物ほど後世に生き残ってきたことが分かる。ヒトを含む霊長類には特に高い可塑性があり、それゆえヒトは生命の歴史の中で進化を遂げ、現在に至っている。

■次の世代へ

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 5億年の歳月を経て進化を遂げたヒトの脳は、受精後38週かけて発達し、世に誕生する。そして、20余年に亘って成長を続けたヒトはいずれ愛を知り、互いを求め、新たな命を生み出していく。
花嫁

◇参考文献
●『脳と心のしくみ』(新星出版社)
●『脳力のしくみ』(ニュートンプレス)
●『心の成長と脳科学』(日経サイエンス)
●『心理学概論』(ナカニシヤ出版)
●『発達と学習』(弘文堂)
●『やさしい発達と学習』(有斐閣アルマ)

◇参考サイト
●理化学研究所 脳科学総合研究センター(http://www.brain.riken.jp/jp/

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