コラム

脳科学はビジネスの世界でどうあるべきか。“疑似科学”からの脱却と、マーケティングを超えたグロースハック戦略

 人体最後のフロンティア(未開拓地)ともいわれる「脳」。脳科学という学術分野では、毎日のように世界中の学者が研究に取り組み、常に最新の研究結果が発表され続けている。

 脳に対する興味や関心は研究者のみならず、社会全体で広くみられる。たとえば、書店の本棚には「ビジネスに活かす脳科学」「無理なくやせる“脳科学ダイエット」「脳科学的に正しい英語学習法」「脳科学は人格を変えられるか?」「仏教と脳科学」などの書籍が並び、インターネット上にも脳科学に関するWebサイトが多くある。

 人びとの興味や関心は、経済市場での需要となる。企業はその需要を満たすため、商品やサービスを提供する。需要に対する供給が適切になされることを社会の幸せであると考えるならば、脳科学という分野が経済市場の中でどのように活かされるべきかという点も、自ずと明確になる。

 本稿では、脳科学という分野が今後の社会、とりわけ経済市場の中でどのように展開されていくべきであるかについてみていく。

1.脳科学は疑似科学か

 脳科学をビジネスの世界で扱う前に考えておくべき点は、人びとが脳科学という分野に対してどのようなイメージをいだいているかという点である。

 当サイト(※「脳科学メディア 」 )に訪れるユーザーが、脳科学と併せてどのような事柄に興味や関心をもっているかという情報をDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)で集計・分析すると、以下のようになる。

 DMPによれば、脳科学に興味を持つユーザーは、併せて「疑似科学」や「ダイエット」、「マーケティング」に強い興味や関心を持っていることが分かる。「ダイエット」と「マーケティング」に関しては、書籍のタイトルである『無理なくやせる“脳科学ダイエット”』と『脳科学マーケティング100の心理技術』に関連するものと考えられるが、これに対して「疑似科学」は、脳科学そのものに対するユーザーの評価を表しているといえる。

 疑似科学とは、“一見すると科学的であるかのように見えるが、科学的根拠がないために実証もできない事柄”を指す。身近な例をあげると、血液型別性格診断などである。脳科学の分野で例を挙げるなら、「〇〇は脳に良い」といった主張の一部が当てはまる。

 DMPの分析結果から、脳科学に興味・関心を持つユーザーは、「脳科学は信用できるのか?」と考えていることが分かる。それでは、この問いに対する答えは是か非か。これは、是でもあり非でもあるといえる。
 注意すべきは、脳科学という学術分野そのものが疑似科学というわけではなく、脳科学の分野で主張されている一部の説が、疑似科学をいわざるをえないという点である。とはいえ、「疑似科学」と純粋な「科学」の境界線は、曖昧である。

2.「疑似科学」と「科学」の境界線はどこにあるか

 疑似科学であるかそうでないかの基準はどのようなものか。この判断は難しい。たとえば、卵は栄養豊富な食材である。ゆえに、卵は食べないよりも食べるほうが身体にも脳にも良い。そうであれば、卵は脳に良いと脳科学的にいえるだろうか。これは、「いえる」だろう。

 疑似科学と純粋な科学との間に境界線を引く難しさは、ここにある。極論をいえば、多くの食材は摂取しないよりもするほうが脳に良い影響を与える。摂取によって少なからず脳に良い影響を与えることから、「摂取によって脳に良い効果を与える」と述べることは誤りではない。これは運動を例にとっても同様である。脳は、身体のいたるところに張り巡らされた感覚器官を通じてさまざまな刺激(感覚)を受け取る。刺激は脳を活性化させ、刺激を受けなかったときと比べて脳は活動的になる。過度なストレスは例外として、適度な運動に限定すれば「運動は脳に良い効果を与える」といえる。

 結局のところ、「何もしない(=与えない)よりはマシ」という程度にて、食事や運動は概ね「脳に良い」といえる。こう考えると、世に蔓延している「〇〇は脳に良い」「〇〇の脳科学」という主張が偽りであると断じるのが困難であることが分かる。とはいえ、この結論は結局のところ、脳科学がどれほどの価値を持ち、人や社会にどれだけの幸せや利益(すなわち社会的な価値)を生み出すかという点について、何も述べていないに等しい。

3.脳科学に求められる「価値」とは

 科学の価値は、「どれほど人や社会に利益をもたらすか」にあるといえる。よって脳科学の価値は、「研究成果を広めることで人びとの脳の成長が促され、末永く健康でいられ、社会全体を豊かにできる」点に見出せる。すなわち、脳科学が疑似科学の領域から脱却し、社会に利益をもたらす純粋な科学に位置づけられるためには、人の望みを叶えることが求められる。

4.脳科学に対する消費者の需要(ニーズ)

 人は、脳科学にどのような興味や関心を持ち、どのような期待を寄せているのか。その一端を知ることができるのが、インターネットである。インターネット上に蓄積されたデータを分析することで、消費者が脳科学に対してどのようなニーズを持っているのかが分かる。

 「脳科学」というキーワードやそれに関連するワードがどれだけ検索されているかをみると、以下のようになる。(※右の数値はひと月に検索されている回数)

 最も多く検索されているキーワードは「脳科学(6,000)」で、その次に多く検索されているのは「脳科学者(2,900)」である。次いで「脳科学者」+α(※主に脳科学者名)での検索回数が3,310回となっている。また、「脳科学 本(2,000)」の検索回数も多く、「脳科学」+α(主に書籍のタイトル)での検索回数は1,980回となっている。

 検索回数を多い順に並べると、以下のようになる。
・脳科学:6,600回
・脳科学者関連:6,210回
・脳科学書籍関連:3,980回

 これに加えて、DMPが検出したサイトユーザーの興味・関心をみると以下のようになる。(再掲)

 検索状況とソーシャルメディアで共通してみられる興味・関心は、「人間関係」「教育」「赤ちゃん」「幸せ」「先生」「海馬」「応用」である。

 検索状況単体では、「ビジネスセミナー」「禅」「番組」「雑学」「老化」「恋愛」「リハビリ」「マインドフルネス」「疲れ」「食べもの」などがある。

 これらを踏まえて脳科学に関するユーザーの興味・関心をまとめると、

・脳科学者について知りたい
・脳科学に関する書籍について知りたい
・大学や研究室について知りたい
・人間関係(恋愛含む)について知りたい
・教育(学習法・記憶法)について知りたい
・リハビリ・ケアについて知りたい
(※上のものほど興味や関心が大きい)

となる。

 冒頭で述べた脳科学に対する「疑似科学」という疑念も踏まえた上で脳科学に対するユーザーの認識を考えると、「脳科学には不明瞭かつ疑わしい部分もあるが、教育や子育て、仕事、または日常生活の中で自身の生活を豊かにしてくれる可能性もあるもの」といえる。

 それでは、ユーザーのこうしたニーズ(需要)はどの程度まで満たされているのだろうか。

5.脳科学に関する企業の供給

(近日公開)

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