コラム

脳の発達の38週間~受精から誕生まで~

 ヒトの脳は、母体で受精した後、38週で形成される。以下では、ヒトの脳が受精から出生に至る38週の間でどのように形づくられ、発達していくのかについてみる。

■受精から出産までの脳の発達

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胎児
 受精後に始まるヒトの脳の形成と発達は、生命そのものの脳の進化の軌跡を辿ることになる。たとえば、今から5億年前に生命が獲得した神経管は受精後3週目に形成され、今から6500万年前に発達した大脳の皮質は、受精後17週目頃までに形成される。このように、受精後のヒトの脳の発達は生命の脳の進化をなぞる。

|受精直後~17日:『胚』と『神経板』の誕生

 卵子に精子が着床して胚になると、胚は細胞分裂を繰り返して細胞の数を増やし、平らな円盤状の『内胚葉』『中胚葉』『外胚葉』を形成する。
細胞分裂
受精後17日頃になると、外胚葉が肥厚することで全ての神経系の基になる『神経板』が形成される。

|受精後3週:脳の基になる『神経管』の誕生と発達

 胚の中で神経板が形成された後、神経板の正中部に神経溝と呼ばれる1本の溝が生じる。そして神経板の両端が盛り上がると同時に神経溝に沿って徐々に内側に折りたたまれていくことで、長さ2mm、直径0.2mmほどの管状の『神経管』が形成される。
 神経管は発生時、1本の管になっているが次第に隆起する部分が生じ、前方部分から後方部分にかけてそれぞれ大脳、間脳、中脳、小脳、延髄、脊髄などへ分化していく。

 神経管の壁面内部では、『マトリックス細胞』が分裂を始める。マトリックス細胞は神経管の壁面内部で内側と外側を往来しながら細胞分裂を繰り返す。分裂した細胞の片方は樹状突起や軸索を持つ神経細胞に変化し、もう片方の細胞はさら細胞分裂を繰り返す。神経管の壁面は、マトリックス細胞が管の内側から外側にかけて放射状に並ぶことで形成されていく。こうしてマトリックス細胞が分裂して増殖を重ねることによって、神経管の壁面は成長していくことになる。形成された神経細胞は神経管の外側に蓄積され、樹状突起を伸ばして神経回路を形成していく。

|受精後4週:各領域の基盤の形成

 神経管から大脳、間脳、中脳、小脳、延髄、脊髄の基盤が形成された後、脊髄で神経細胞が分化しはじめる。

|受精後5週

胎児の変化-01
 胎児の全長が1cm程度となる。大脳は神経細胞を生み出すマトリックス細胞だけからなり、神経細胞は脳幹と脳髄にだけみられる。前脳、中脳、菱脳のふくらみができはじめる。
 体の部位ではひれの形をした手足が突きだしてくるが、指は未だ形成されていない。

|受精後7週

胎児の変化-02
 胎児の全長が2cmを超え、首や体の屈曲運動や手足の屈伸運動をするようになる。脊髄の神経細胞の分化は概ね完了し、大脳では神経細胞が分化し始める。分化した神経細胞は他の神経細胞から情報を受け取るための樹状突起や、情報を伝えるための軸索を介して他の神経細胞との情報網を形成していく。

|受精後10週

胎児の変化-03
 胎児の全長が7cm前後になる。脊髄の神経細胞が手足の末端まで伸び、筋肉と結合する。

|受精後13週

 全長が13cmを超え、全身の器官の基礎形成が完了する。大脳では盛んに神経細胞が生み出され、大脳皮質の形成が活発に進行する。脳幹(間脳・中脳・延髄)の神経細胞の形成は、この頃に完了する。

|受精後16週

 視神経が大脳と結びつくことで視覚情報を感じることが可能となる。

|受精後17週

胎児の変化-04
 全長が20cm程度となる。大脳での神経細胞の産出が完了に近づき、約140億個の神経細胞が大脳皮質を形成した状態となる。大脳の神経細胞数はこの時期で最大となり、これ以降は生涯を通じて減少していくことになる。

|受精後20週

 全長が25cm程度、体重は200g~300gとなる。脳幹や脊髄を中心に、成熟しつつある神経細胞の軸索に『髄鞘』が形成され始める。軸索は発生当初、剥き出しのままだが発達にともなって『グリア細胞』が巻き付いて鞘(髄鞘)がつくられる。髄鞘は絶縁体の役割を果たし、電気信号が髄鞘の節から節へと跳躍して伝わる。これにより、脳内の電気信号の伝導効率が著しく高まる。髄鞘化を経て、神経細胞どうしの連結と信号の伝達・処理機能の完成へ向けた脳機能の整備が始まる。

 この時期になると大脳皮質の折りたたみが始まり、大脳皮質のしわが増えていく。大脳や小脳などの脳の基本構造の区分が概ね完成し、感覚器官や中枢神経系の大枠もこの時期に形成される。

|受精後21週

 内耳と外耳という基本形態ができあがる。内耳は大脳と聴神経によって配線され、音を感じ取る聴覚情報処理が機能し始める。

|受精後22週

 脳幹では動眼神経や顔面神経などに続いて、眼や顎に関する三叉神経、聴神経、内耳神経などの感覚神経でも髄鞘化が始まる。もっとも、この時点では実際に見えたり聞こえたりすることはない。なお、脳幹の発達が一定の水準に達するため、この時期に産まれても生存していくことは可能となる。

|受精後26週

 大脳の表面に中心溝や頭頂後頭溝、シルビウス裂(外側溝)が明確にみられるようになる。この時期になると、人間らしさを特徴づける大脳の大枠が形成される。脳幹も完成に近づき、音や光に対する反射や呼吸へ繋がる運動が現れるようになる。

|受精後30週

胎児の変化-05
 全長が45cm程度になる。神経面も、生まれるための最低限の準備がほぼ整うことになる。
 視神経や脳幹、脊髄から大脳に向かう軸索にも髄鞘化が始まる。中耳が形成され、外界の音が聞こえる体制ができる。また、光が脳に伝えられるようになる。

|受精後37週

胎児の変化-06
 全長が50cm程度となり、いつ生まれても可能な体制が整う。
 大脳皮質のしわが増え、ヒトの脳としての完成に近づく。大脳内部の軸索も髄鞘化が始まる。やがて脳の活動には一時的な抑制がかかり、胎動もほぼ停止し、出産を待つことになる。

|受精後38週

 受精から38週にわたって胎内で育った後、出生する。
38週目
 胎内では脳の基本的な構造が形成されるが、そうして形成された脳が出生後にどれほどの機能を有し、どれだけの役割を果たすかは、成長後の環境によって定まることになる。

◇参考文献
●『生命の誕生と進化の38億年』(ニュートンプレス)
●『脳と心のしくみ』(新星出版社)
●『脳力のしくみ』(ニュートンプレス)
●『心の成長と脳科学』(日経サイエンス)
●『心理学概論』(ナカニシヤ出版)

◇参考サイト
●理化学研究所 脳科学総合研究センター(http://www.brain.riken.jp/jp/

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