コラム

DV(ドメスティック・バイオレンス)のメカニズム【脳科学】

 内閣府男女共同参画局の統計によれば、配偶者暴力相談支援センターにおける相談件数は2002年に35,943件だったが、2018年には114,481件まで増加した。暴力事案に限れば、2002年が14,140件だったのに対して、2018年には77,482件まで増加している。現在、一度でも配偶者から身体に対する暴行を受けた女性は、31.3%に上る。これは、約3人に1人の割合である。

【目次】
1.DVとは何か
2.DVの種類
3.被害者・加害者の精神状態
4.DVから逃れる方法
5.解決するには

1.DVとは何か

 DV(ドメスティック・バイオレンス)は「家庭内暴力」と同一視されがちであるが、このふたつは厳密にいえば異なる。

 一般的に、「家庭内暴力」という用語は家庭内で行われるあらゆる暴力行為に対して用いられるが、日本では、1960年代後半から注目されるようになった「良い子による家庭内暴力」に用いられている。すなわち、それまで素直で良い子であった子どもが、親や兄弟に対して家庭内でふるうようになる暴力を指す。
 典型的なものとしては、不登校に随伴してみられる家庭内暴力である。加害者となる子どもは、脳の器質性障害や精神疾患の傾向がみられることもあるが、強迫性や他者配慮性を中心とした性格傾向を有することが多い。また、両親も強迫性を中心とする性格傾向を有しているのが一般的といわれている。家庭内暴力が生じる背景には、思春期の自立の課題が存在していることが多い。

 主な治療方法としては、本人や家族に対する精神療法や、暴力が激しい場合には抗精神病薬やカルバマゼピンなどが用いられる。

 この家庭内暴力と区別されるのが、夫婦間の暴力や児童虐待を指すDV(ドメスティック・バイオレンス)である。ドメスティックは「家庭の、国内の」という意味だが、厳密には夫だけでなく、恋人による暴力や、別れた夫からの暴力も含まれる。

2.DVの種類

 DVというと、しばしば殴る蹴るといった暴力が想像されるが、これは一部に過ぎない。主なDVの種類には、以下のようなものがある。

・身体的DV
暴行、傷害、監禁、束縛などの行為

・精神的DV
無視、暴言、恐喝、強迫、脅迫、罵倒、叱責、恫喝などの行為

・性的DV
中絶の強要(もしくは出産の強要)、性行為の強要などの行為

・経済的DV
生活費を渡さない、借金をさせる、費用を負担させる、家庭外労働の禁止、家計の管理を独占などの行為

・社会的DV
友人や親族との付き合いを制限もしくは禁止させるなどの行為

・その他のDV
子どもに悪口を言う、子どもを傷つけると脅すなどの行為

3.被害者・加害者の精神状態

 一般的な感覚でいえば、DVを受ける被害者は反抗したり、逃げるという選択肢があるかのように思える。しかし、暴力や自尊心の蹂躙が繰り返されることで、「自分は殴られて当たり前」「自分には生きている価値がない」という心理に陥ることが多い。また、恐怖で支配されることで現状から抜け出す意識を持てないこともある。(いわゆる「無気力学習」と呼ばれる状態)

 他にも、マインドコントロールやストックホルム症候群(=被害者が加害者に対して好意に似た繋がりを意識する症状)などの要因が重なり、自力でその環境から逃げ出すことが困難になる。

 多くの場合、DVにはサイクルがある。「1.緊張の蓄積期」では、加害者の機嫌が悪くなり始め、些細なことでイライラし、威圧的になる。「2.暴力爆発期」では、加害者が怒りを制御できなくなり、被害者に対して激しい暴力をふるうようになる。「3.開放期」になると加害者は暴力をやめ、「もう暴力をふるわない」と謝罪し、別人のように優しくなる。その優しさに触れた被害者は、「もしかするとこれで変わってくれるかもしれない」「やっぱり愛されている」「自分がいなくては」と考えるようになる。
 しかし、一定期間が過ぎると加害者は再び「1.緊張の蓄積期」→「2.暴力爆発期」→「3.開放期」を繰り返し、DVのサイクルに陥る。

 このサイクルが幾度となく繰り返されることで、加害者も被害者も感覚が麻痺し、暴力がエスカレートしていく。エスカレートする暴力は、次第に暴力によるケガだけでなく、慢性身体疾患やPTSD(心的外傷後ストレス障害)、うつ病、アルコールや薬物の乱用などを引き起こす。被害者が精神疾患を発症することで治療が必要になるが、その一方で、加害者側も精神的な問題ゆえに治療が必要となることもある。しかし、加害者が自ら進んで治療を受けることはほとんどない。

 上述したような被害者の精神状態の悪化だけでなく、経済的な理由も相俟って、DVによる離婚の割合は低い水準に留まる。内閣府のデータによると、DVの被害を受けた女性のうち、離婚に至ったのは10%程度である。

4.DVから逃れる方法

 DVは、外部からは分かりにくいという特徴がある。家庭内のことは外から分かりにくい上に、問題を抱えていても世間体を気にして相談しないというケースもある。また、家の外では「良い夫(もしくは良い妻)」を演じ、周囲からもそうみられているゆえに気づかれにくいこともある。

 DVから逃れるためには、他者からの助けを待つよりも、被害者が自ら行動するほうが解決が早い場合もある。被害者が日常的に行うべき(行える)対策としては、主に以下のものが挙げられる。

・家の中にある危険なものは隠す。
・緊急避難場所を決める。
・いざというときに持って行く必要のあるものをまとめる。
・常にある程度のお金を持ち歩く。
・携帯電話やスマートフォンを持ち歩く。
・自由に使えるお金を用意する。
・仕事に活かせる資格を取得する。
・信頼できる相談相手を決める(相談する)。
・ケガや破損を写真に撮る。

 具体的な相談先としては、以下の機関がある。
・「警察」
・「法務省女性の人権ホットライン」
・「法務省インターネット人権相談受付窓口」
・「配偶者暴力相談支援センター」

 行政機関や司法機関は、被害者を保護するために被害者の一時保護や自立支援、接近禁止命令や電話禁止命令、退去命令などの対策をとることができる。

5.解決するには

 DVは、その発生メカニズムと結果(被害)のいずれも、精神疾患と切り放せない領域の社会問題である。解決のためには法や社会制度の整備だけでなく、心理・脳の側面からの取り組みも必要不可欠となる。
 こうした取り組みに加え、家庭内で生じるという性質上、問題の顕在化のためには被害者が自ら行動していくこともまた、求められるといえる。

【参考文献・参考サイト】
・現代精神医学事典(弘文堂)
・やさしくわかる精神医学(ナツメ社)
・法務省人権擁護局「ドメスティック・バイオレンス3」
・政府広報オンライン「パートナーや恋人からの暴力に悩んでいませんか。一人で悩まずお近くの相談窓口に相談を。」
・内閣府男女共同参画局「配偶者からの暴力に関するデータ」
・厚生労働省e-ヘルスネット「ドメスティック・バイオレンス(DV)と心身の健康障害」
・京都府「考えてみようデートDV~ずっと「シアワセ」でいるために~」
・奈良県大和高田市「(DV) ~配偶者やパートナーからの暴力~を知っていますか?」
・横浜市男女共同参画推進協会「DV/デートDVチェックリスト」
・東洋経済ONLINE「DVに陥りやすい人を見分ける4つのポイント」

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