新型コロナウイルスがもたらす脳の症状
日々増え続ける新型コロナウイルスの感染者。増加数に多くの注目が集まる中、その副作用にまではあまり注意が向いていないというのが現状である。
新型コロナウイルスの患者には、断続的な熱の上昇や眩暈、疲労、味覚や嗅覚の障害、呼吸困難、関節痛、胸痛などの症状も多く報告されている。また、こうした副作用以外にも、新型コロナウイルスは脳にも感染し、深刻な脳障害を起こす恐れがあるという報告が相次いでいる。具体的な症状としては、髄膜炎や脳炎、意識障害のほか、記憶障害などがみられる。
日本国内で報告されている例であれば、20代の男性が新型コロナウイルスに感染し、意識を失ったまま痙攣していたところを家族に発見されて市病院で検査を受けた結果、頭蓋骨と脳の間の髄膜が炎症を起こす髄膜炎を患っており、記憶を司る海馬に炎症が確認された事例がある。無事に退院となったが、直近の一、二年の記憶が曖昧のままという。新型コロナへ影響がどの程度あるのかについては明確となっていないが、関係が疑われている。
イギリスで報告されている例では、新型コロナウイルスに感染している女性が意識障害を起こし、入院時にMRIで脳の腫れや出血が確認された。急性壊死性脳症と診断され、入院10日目に亡くなっている。
ドイツの研究チームによると、新型コロナウイルスの感染者の20%に頭痛、7%に眩暈、5%に意識障害があったと報告されている。また、髄膜炎や脳炎、手足が麻痺するギラン・バレー症候群も少数であるが報告されている。
新型コロナウイルスが脳に影響を与えるメカニズム
新型コロナウイルスは、どのようなメカニズムで脳に影響を与えるのか。これは主に2つのパターンがあると考えられている。ひとつはウイルスが嗅神経や血管を通って脳の細胞に直接感染するパターンであり、もうひとつは脳以外の臓器への感染がきっかけになるパターンである
前者の場合、脳内で増えたウイルスが炎症を起こし、脳の中枢神経を損傷させる。後者の場合、他の臓器への感染により「サイトカインストーム」と呼ばれる免疫の暴走が生じて全身に炎症が起き、脳の中枢神経にも影響を与える。
なお、アメリカの研究チームによると新型コロナウイルスが脳の神経細胞に感染することが明らかにされている。また、ウイルスが感染すると細胞内で自己複製し、周囲の細胞から酸素を奪うことで周囲の細胞を死滅させていることも明らかにされた。さらに、感染からわずか数日で新型コロナウイルスがニューロン間をつなぐシナプスの数を急激に減少させることも観察されている。
一方で、日本の研究チームは「脳への影響のメカニズムを明らかにするのは難しい」としている。これは、脳への影響が分かる頃には既にウイルスが全身に回っており、感染経路が特定できない場合が多いためである。
新型コロナウイルスは脳を老化させる?
イギリスの研究によれば、新型コロナ感染症にかかった人の脳は最高で10歳も老化し、高度な思考力が目に見えて減退する可能性があることが報告されている。
この研究では、新型コロナウイルス感染症から完治した8万4000人以上の元患者に対して思考能力の試験を行った。研究の参加者は、問題解決能力や空間記憶力、注意力、感情の調節能力などを測定された。これらの結果を新型コロナウイルスに感染したことのない人々の結果と比較すると、新型コロナウイルス感染症の元患者は、非感染者よりも認知力テストの成績が悪いことが分かった。なお、認知力低下の関連性は重症者のほうが大きかった。
これらの研究で明らかになったのは、高次の認知といわれる能力に特に目立つ後遺症が見られたことである。感染によって入院し、呼吸器の症状が深刻化して人工呼吸器をつけた20〜70歳の元患者の思考力は、平均で10歳年上の人のレベルにまで減退していたことが分かっている。もっとも、この研究に対しては「新型コロナウイルスが思考力の問題を引き起こすことを証明していない」という批判もあり、研究成果は限定的だと考えられている。
【参考文献・参考サイト】
・Neurology
・BRAIN A JOURNAL NEUROLOGY
・Springer Lin
・朝日新聞「治っても後遺症? 新型コロナの恐ろしさ、新たな闘い」
・朝日新聞「意識失い嘔吐、記憶あいまい 新型コロナ、脳まで侵入か」
・Newsweek「新型コロナ感染の後遺症で脳が10歳も老化する?」
・東洋経済「コロナ「脳細胞にまで侵入する」という新事実」