「日本人」に対するイメージとして、特に諸外国からは勤勉さや誠実さなどが挙げられる。海外メディアの「The Unz Review: An Alternative Media Selection」によると、日本人の平均IQ(知能指数)は107で、世界ランクで1位である。また、OECD(経済協力開発機構)が実施した学習到達度調査(2018年)では、OECD加盟国37ヶ国の中で「数学的リテラシー」が1位、「科学的リテラシー」が2位と、いずれもトップクラスとなっている。
これらの数値や順位をみれば、まさに日本は「優等生」といえるが、日本人の労働生産性に焦点を当てるとその評価は著しく低くなる。
【目次】
1.日本人の労働生産性
2.労働生産性が低い要因
・2-1.残業・長時間労働の文化
・2-2.年功序列・終身雇用の文化
・2-3.新卒一括採用とゼネラリスト育成の文化
・2-4.無意味なルール・手続きを踏襲・遵守する文化
・2-5.「高品質・低価格」
3.日本の労働生産性の今後
1.日本人の労働生産性
OECD加盟諸国の労働生産性(2018年)をみると、日本は36ヶ国の中で21位となっている。この順位は、1970年の20位、1980年の20位よりも低下している。主要先進七ヶ国(アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、日本)の中では、最下位である。この順位も70年代、80年代と最下位で、90年代はイギリスを追い抜くも2000年以降は最下位のままである。金額で比較すると、日本が81,258ドルに対して、主要先進七ヶ国のトップのアメリカは132,127ドルである。
2.労働生産性が低い要因
日本の労働生産性が低い要因は、複数考えられる。
2-1.残業・長時間労働の文化
労働生産性は「生産金額」を「生産に要した時間」で割ることで算出される。そのため、分母となる労働時間が増えれば増えるほど、労働生産性は低くなる。日本では今でも「上司より先に帰らない文化」が根付いているため、業務が終わっても帰らない、もしくは業務が定時に終わらないよう調整することも多々あると考えられる。
また、「残業代で稼ぐ」という文化も要因のひとつとなっている。効率的に仕事をすればするほど残業代が少なくなるため、結果的に「非効率な仕事をしたほうが儲かる」という現象が生じる。
人事評価の面でも、「非効率」が評価されることを示唆するデータがある。公益財団法人日本生産性本部の調査によると、自社の労働生産性が低いと感じている企業ほど、長時間労働によって成果を出した従業員を高く評価する傾向がある。すなわち、「とにかく長時間働くこと」が評価の対象となっている。これは、「仕事の成果」よりも「仕事をしている姿」を重視していると言い換えられる。テレワークが導入された際、管理職の半数が「部下がさぼっていないか心配である」と答えたことから、いかに「がんばる姿」を評価しているかが分かる。
これと対称的なのが、ドイツである。ドイツでは、1日の労働時間が原則として8時間を超えてはならない。超える場合は2時間以内とし、後日の労働時間を調整し、6ヶ月間の平均労働時間を1日あたり8時間以下にしなければならない。1日の労働時間が10時間近くなるとパソコンの画面に「10時間を超える労働は法律違反です。ただちに退社してください」と警告が出る会社もあるといわれている。こうした環境では、常に効率化を考え、生産性を高める意識が生み出される。
また、ドイツでは社員に対して最低24日の有給休暇を取得させなければならない。管理職以外の社員の場合、有給休暇の取得率は100%といわれている。これに対して日本は50%程度であり、調査対象となった19ヶ国で最下位となっている。
2-2.年功序列・終身雇用の文化
年功序列や終身雇用の制度は、生産性の向上を妨げうる。年功序列制度の下では、従業員は生産性の向上や効率化を実現せずとも賃金が上昇していくことが期待できる。このような環境下では、非効率さを改善する動機づけが生じにくい。また、一度採用した従業員を容易に解雇できないことから、生産性の低い従業員を組織に抱えたままとなる。このような年功序列・終身雇用制度の下では、従業員の労働意欲の低下を防ぐことが困難となる。
2-3.新卒一括採用とゼネラリスト育成の文化
日本では、いわゆる新卒一括採用が主である。これに対して、ヨーロッパのようでは義務教育の段階から生徒の適正に合わせた教育が行われる。たとえば、フランスでは11歳からの前期中等教育の4年間を経て、15歳から普通教育課程と技術教育課程に分けられる。また、ドイツでは10歳からの中等教育の段階で、生徒の能力や適性に応じて「職業訓練を受ける者」「職業教育学校へ進学もしくは中級の職に就く者」「大学進学を希望する者」とに分けられる。すなわち、就職する何年も前から特定の職に備えた教育が行なわれる。
これに対して日本では、大学の学部で文系と理系に分けられるが、特に文系であれば「事務系」「総合職」としての採用が行われ、本人の能力と職種の適合性はあまり考慮されない。これは入社後も同様で、いわゆる「ジョブローテーション制度」が多くの企業でみられ、配属から数年が経過すれば新しい部署に移るという人事制度が根強い。それゆえ、特定の技能に特化することがなく、生産性が高まらない要因のひとつとなっていると考えられる。
2-4.無意味なルール・手続きを踏襲・遵守する文化
日本の企業では、無意味な、もしくは意味のあまりないルールや手続きが少なくない。たとえば、署名捺印が必須の書類の処理をはじめ、形だけの会議と、不要な参加者、読み返すことのない議事録、または経営層の思い付き発言による報告資料、そして長年にわたって引き継がれている非効率な業務プロセス、外堀から埋める根回しの文化など、利益を生む活動ではなく、ルールや手続きに沿うことが目的となることが多い。改善されないまま愚直に従い続ける各種の取り組みが、労働生産性を引き下げる要因となっている。
日本の企業では、捺印のためだけに出社したという事例もみられ、テレワークの導入を妨げる要因にもなっている。国別にテレワークを導入している企業の割合を見ると、ドイツが80%、オーストラリアが71%、アメリカが69%、カナダが69%、フランスが60%、世界平均が62%であるのに対して、日本は32%である。
2-5.「高品質・低価格」
「高品質・低価格」といえば聞こえは良いが、低価格で提供される製品・サービスの陰に、長時間労働や無償労働の存在がある。たとえば、配送業の再配達サービスである。配達物持って玄関まで訪れたにもかかわらず、受取人が不在であれば時間をおいて無料で再び訪れる。サービス利用者からすればまさに「高品質・低価格」のサービスだが、その裏で労働生産性を下げている事実に変わりはない。他にも、全品280円の焼き鳥店や、59円のハンバーガーを提供するファストフード店など、「低価格」でサービスを提供する企業は少なくない。
3.日本の労働生産性の今後
これまでにみてきたように、日本人は高いIQ・学力を有しながらも、労働生産性は先進国の中で最低水準にある。その理由は主に企業文化・労働文化に起因しており、その根本的な解消は一朝一夕では困難といえる。日本の労働生産性が改善・向上するのには、これから数十年の歳月がかかるのかもしれない。
【参考文献・参考サイト】
・The Unz Review: An Alternative Media Selection
・公益財団法人 日本生産性本部「労働生産性の国際比較」
・公益財団法人 日本生産性本部「第15回 日本的雇用・人事の変容に関する調査結果」
・独立行政法人労働政策研究・研修機構「フランスの学校制度と職業教育」
・独立行政法人労働政策研究・研修機構「ドイツの学校制度と職業教育」
・在日ドイツ商工会議所「なぜドイツの労働生産性は日本よりも高いのか」
・東洋経済ONLINE「「日本は生産性が低い」最大の原因は中小企業だ」
・東洋経済ONLINE「日本人の労働生産性が上がらない決定的な要因」
・東洋経済ONLINE「「長時間労働がない」ドイツと日本の致命的な差」
・MERCHANT SAVVY「Global Remote Working Data & Statistics Updated Q1 2020」
・GEPPO「世界と比較した日本の労働生産性と企業が取り組むべき対策」
・RELO総務人事タイムズ「労働生産性を上げるには?国際比較からわかる日本の働き方の特徴」
・文部科学省・国立教育政策研究所「OECD 生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018のポイント)」