コラム

IQとEQ
-組織や社会で成功するために必要な能力とは-

 「IQ」という言葉を、一度は聞いたことがあるかもしれません。IQは知能指数を示す言葉で、いわゆる“賢さ”を数値で表す場合に用いられます。これに対して「EQ」は、あまりなじみのない言葉かもしれません。IQがしばしば“考える知性”を表すのに対して、EQは“感じる知性”を表します。

 IQ(知能指数)が高い場合、思考力に優れ、処理能力や学習能力が高い傾向がみられます。これに対してEQ(心の知能指数)が高い場合、自身の感情を制御したり、人間関係を円滑にしたり、努力し続けることが得意となる傾向がみられます。また、対人コミュニケーションが得意であることから周囲の理解や協力を得られやすいと言う特徴もあります。EQは文部科学省の学習指導要領で「生きる力」と表現され、昨今では教育分野にて重要な考え方として浸透しています。

 EQという考え方が登場して以降、しばしば「IQはそれほど重要ではない」という声も耳にするようになりましたが、この考え方は正しくないといえるでしょう。ヒトが組織や社会で集団の一員として活動していく上でEQが重要であることは間違いありませんが、IQもまた、同じくらいに重要です。

1.IQやEQを伸ばす方法
 1-1.IQの伸ばし方
 1-2.EQの伸ばし方
 1-3.成人後のEQの伸ばし方
2.組織や社会で成功するために必要なIQとEQ
 2-1.適材適所が実現された組織・チームで戦う
3.日本人のIQとEQは世界的にみてどうか
4.相手に「与える」姿勢が評価される
5.IQとEQを伸ばし続ける

1.IQやEQを伸ばす方法

 IQやEQを伸ばすためには、幼少期の教育が重要です。

1-1.IQの伸ばし方

・肯定的な言葉を多くかける。
 3歳までに多くの言葉を聞いて育った子どもは、そうでない子どもと比べて語彙力とIQ(知能指数)が高く、学業成績が良くなるという研究結果があります。話しかけるのは生後ではなく、出産予定日の10週間前からが理想であるといわれています。

 生後は、子どもの顔を見て話しかけるのがポイントです。ヒトの脳には、相手の表情を見たときに活発になる部位があります。この部位では、テレビやラジオからの一方的な言葉では効果はあまり期待できないといわれています。

 アメリカでの研究によると、生活保護を受けている世帯の子どもが聞く単語数は1時間に平均で600語で、専門職に就いている親の世帯の子どもは1時間に平均で2,100語となっています。前者の子どもは4歳までに約1,300万語を聞き、後者の子どもは4,800万語を聞いている計算となります。この差が、成長後の学力やIQに影響を与えることが分かっています。

 なお、子どもに言葉を語りかける際に重要なポイントは、“子どもが必ずしも単語の意味を理解している必要はない”という点です。最初は分からない言葉でも、回数を追うごとに理解を深めていくことになるためです。

 豊富な語彙が子どもの知能を高めることから、子どもへの語りかけや読み聞かせは、可能な限り語彙が豊富なほうが良いことが分かります。例えば、「桃太郎」であれば以下のような内容が好ましいといえます。

【通常版】
むかしむかし、あるところに、おじいさんと、おばあさんが住んでいました。おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯にいきました。(65文字)

【豊富な語彙版】
むかしむかし、それは江戸時代かもしれないし平安時代かもしれない、もしかすると、それよりもむかしかもしれない、今からずっとむかしの時代。白い雲と温かい太陽が特徴的で、そして明るい緑の木々と鮮やか桃色の花がいたるところにあふれるあるところに、ハキハキと喋るおじいさんと、テキパキと動くおばあさんが住んでいました。若い頃の面影を多く残すおじいさんは使い慣れた鎌を持って山へ柴刈りに、朝ごはんをたくさん食べて心も身体も元気いっぱいのおばあさんは溜まった洗濯物を持って川へ洗濯にいきました。(240文字)
(※1,300万語:4,800万語 = 65文字:240文字)

 子どもに語りかける言葉は、その量だけでなく、質も重要です。「ダメ」や「違う」といった否定的な言葉ではなく、「良い」「その通り」といった肯定的な言葉が子どものIQを伸ばす要素となります。

1-2.EQの伸ばし方

・子どもの話を聞く
 子どもの話を笑顔で聴くことで、子どもには安心感が生まれ、自信を持つようになります。人を信頼するようになることで協調性が養われ、人間関係を円滑に進めることができるようなります。

・夢中にさせる
 何かに夢中になることで、好きなことに前向きに取り組む素養が身に付きます。勉強に対する苦手意識が無くなり、学習意欲が高い子どもに育つことが期待できます。夢中になれるものを作ることは、いわゆる“やり遂げる力”や“成し遂げる力”を育てるために重要なポイントです。

・自制心を養う
 研究によると、4歳の時点で自制心が高い子どもは、18歳の時点で理性的な応答ができ、高い集中力、計画性、学習意欲があるといわれています。EQを養うためには物事に夢中に取り組ませるだけでなく、ときに「しても良いこと」「してはいけないこと」を区別させ、感情や行動を自制する訓練も必要となります。

1-3.成人後のEQの伸ばし方

 EQは、幼少期を過ぎると伸ばすことはできないのでしょうか。幼少期ほどではないにせよ、EQは青年期以降も訓練次第で伸ばすことが可能です。

・日々の出来事を肯定的に捉える
 EQを高めるためには、物事を肯定的に捉えることが重要です。日々の生活の中で起きる出来事に対して常に前向きにとらえ、一日の終わりは良い出来事の振り返りを行うことが大切です。
 自身が日々の出来事を肯定的に捉えるタイプであるか否定的に捉えるタイプであるかは、たとえば自身の学生時代や、異性との交際期間中の出来事を思い出すことで確認することができます。それぞれの出来事を思い出す際に、良い想い出が最初に浮かぶか、悪い思い出が最初に浮かぶかによって、肯定的に捉えるタイプが否定的に捉えるタイプかを区別することができます。もしも否定的な想い出が多く浮かぶのであれば、少しでも良い側面を思い出せるよう取り組むことが大切です。

・人間関係の中で、他者の長所を見つけ、伝える
 EQが高いといわれる人たちは、対人関係における苦手意識が少ないといわれています。他者の長所を見つけ、相手にそれを伝えることで自然と周囲からの評価が高まり、人間関係も円滑になることが期待できます。

2.組織や社会で成功するために必要なIQとEQ

 組織や社会で成功するためには、IQとEQのいずれも重要となります。特にビジネスの世界では、高いIQが実現する思考力や記憶力、学習能力や説得力などが不可欠です。また、周囲のメンバーや取引先の協力を得るためには、高いEQによって相手の心の動きを察知し、適切に対応する能力が重要となります。

 報告によると、業界や市場、役職がどのようなものであれ、EQが1ポイント上昇するごとに年収が1,300ドル(≒日本円で14万円)上がるといわれています。なお、営業員やカウンセラー、コールセンターのオペレーターなどはEQが高い人ほど業績が高いのに対して、コミュニケーション能力よりも計算能力の方が重要とされる会計職や技術職などでは、EQが高いほど業績が低いということも分かっています。すなわち、職種によってEQの重要度が異なることが分かっています。計算が多い職種の場合は感情が豊かでないほうが、高い業績を期待できるという結果が示されています。

2-1.適材適所が実現された組織・チームで戦う

 極論をいえば、IQが高い従業員は優れた思考力や判断力によって卓越した知見や解決策を生み出すことができる反面、周囲メンバーの理解や支援がないと組織やチームと円滑に協力することが困難といえるかもしれません。また、EQが高い従業員は協調性のない他のメンバーに働きかけることを得意とする反面、創造力や革新性を求められる業務を遂行するのが困難かもしれません。IQとEQはそのいずれかが他方の優位に位置するような上位互換という概念ではなく、それぞれが長所や利点のひとつであるといえます。

 たとえば、高いIQを持っているメンバーであってもEQが低いために“やり遂げる力”が発揮されずにプロジェクトが頓挫する場合や、高いEQを持っているメンバーであっても戦略が思いつかないことで競合他社に後れを取るという場合など、どちらか一方が欠けることで事業がうまくいなかいというケースが考えられます。そのため、IQとEQは互いに優劣をつけるものではなく、それぞれを伸ばし、補完し合うことで組織やチーム全体を活性化させるための要素として捉える必要があります。

3.日本人のIQとEQは世界的にみてどうか

 世界的にみて、日本人の学力の高さがしばしば話題になりますが、日本人のIQは世界の平均と比べてどれくらいの水準にあるのでしょうか。海外メディアの「The Unz Review: An Alternative Media Selection」によると、日本人の平均IQは107で、世界ランクで1位といわれています。

【世界148ヶ国別の平均IQとランキング】
(出典:「The Unz Review: An Alternative Media Selection」)
【拡大版】
(出典:「The Unz Review: An Alternative Media Selection」)

 上位国や主要国のランキングは以下の通りです。(カッコ内はIQの平均値)
1位:日本(107)
2位:台湾(106)
3位:シンガポール(106)
4位:香港(105)
5位:中国(104)
6位:韓国(102)

10位:ドイツ(101)
20位:イギリス(99)
27位:アメリカ(97)
30位:フランス(97)
33位:ロシア(96)
39位:イタリア(94)

 上記の表からも、日本人のIQが世界的にみて高い水準にあることが分ります。それでは、日本人の平均的「EQ」は、世界的にみてどのような水準なのでしょうか。グローバルEQ検査を行っている「Six Seconds」の統計によると、
1. 達成への意欲(粘り強さ)
2. 人間関係の品質(ネットワーキング、支援)
3. ウェルビーイング(身体的な健康やストレスマネジメント)
4. クオリティ・オブ・ライフ(生活の充実感)
の項目を日本人を対象に調査した結果、以下のような分布になったことが報告されています。

(出典:「シックスセカンズジャパン」)

 曲線は世界基準を表しており、それと比較すると日本人のEQスコア(棒グラフ)が75以下に偏っていることが分かります。日本人といえば「忍耐強さ」のイメージが世界的に持たれているとの声も聞かれますが、「身体的な健康やストレスマネジメント」「生活の充実感」という項目では、確かに自己肯定感は世界的にみても極端に低いといえます。これらの数値は、日本人の自死率が先進主要国の中でトップにあることと無関係ではないのかもしれません。

4.相手に「与える」姿勢が評価される

 ペンシルバニア大学ウォートン・スクールのアダム・グラント教授は、「成功」という基準で組織の最下位層にいるのがどのようなタイプの人物であるかを分析しました。その結果、多くの人が「ギバー(Giver:受け取る以上に与えようとするタイプ)」であることが分かりました。

 なお、最下位層にいるのが「ギバー」であれば最上位層にいるのはどのような人物であるかという分析もおこなわれました。その結果、最上位層にいるのも「ギバー」でした。すなわち、常に他者に何かを与え、助けることを優先している人たちは、いわゆる敗者ばかりでなく、勝者にも多く登場していることが分かりました。これに対して、組織の中間層にいるのは「マッチャー(Matcher:受け取ることと与えることのバランスを取ろうとするタイプ)」と、「テイカー(Taker:与えるものよりも多くを受けとろうとするタイプ)」でした。

 社会学者であるアーサー・ブルックスが慈善事業への寄付と所得の関係を統計学的に調べたところ、ある世帯が1ドル寄付するごとに、寄付をしなかった世帯(宗教、人種、子どもの数、居住区、教育レベル等、他の条件で等しい)に比べて所得が3.75ドル上昇することが分かりました。

 上述したように、組織の頂点に立つのは、多くが統計的にみればギバーと呼ばれる人たちです。この結果からも、常に他者に何かを与えることを考えている人は、結果的に周囲から評価され、より多くのものを手に入れる傾向が強いことが分かります。

 それでは、なぜ同じ「ギバー」であっても、組織の最上位層と最下位層に分かれるのでしょうか。この違いを決定づける要因のひとつが、「周囲の環境」です。

 1,000人の被験者を幼少期から死亡まで追跡調査した「ターマン調査」では、人がどのように育つかは周囲の人々によって決定付けられるということが分かっています。周囲の人が利他的(=他人のために尽くすよう)に振る舞うのを見ると、人はいっそう利他的に行動するようになるといわれています。そして、周囲に利他的な人が増えれば増えるほど、人は安心して「ギバー」になり、自身の善意や行動が無尽蔵に搾取されることを恐れずに互いに恩恵を得合うことができるようになります。

 人間関係の中で重要なのは、ギバーを見つけ、長期的に付き合うことです。もしも付き合いが一回きり、もしくは数回程度であれば人は目の前の相手(ギバー)からできるだけ多くを一方的に引き出そうと考えます。この点、付き合いが長期にわたるのであれば、安心して自らも与える役割を果たそうとするので、結果的に互いに与え合う環境が築かれやすくなります。

5.IQとEQを伸ばし続ける

 これまでにみてきたように、人が組織や社会の中で円滑に活動し、多くの結果を残し、多くを得るためには、IQとEQのいずれもが重要となります。また、自身のIQやEQを伸ばすだけでなく、同様に高い水準のIQやEQを持つ人たちとの長期的な付き合いも不可欠といえます。人生で大成するためには、自身のみならず、常に他人を意識することが重要なのです。

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