コラム

ALS(筋萎縮性側索硬化症)の症状・原因・治療法などについて知る

 2014年、アメリカで「アイス・バケツ・チャレンジ」という運動が広まったことを覚えている人も多いかもしれない。これは、指名を受けた人物が「A.氷水をかぶる」「B.100ドルを寄付するか」のいずれか(もしくは両方)を24時間以内に選ぶというゲームである。
 この運動はアメリカのみならず、後に日本をはじめとする世界各国に広がった。日本では一般市民をはじめ、実業家やアーティスト、国会議員などが幅広く参加した。参加者は述べ2,800万人に達し、この年に集まった寄付金は、当該団体の過去20年間の合計額の50%近くとなった。

 このときの寄付の対象団体となったのが、ALS(筋萎縮性側索硬化症)協会である。それまで認知度の低かったALSは、これを期に広く知られるようになった。

【目次】
1.ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは
2.障害発生のメカニズム
3.ALSの疾患者・原因・治療法・発見方法
4.ALSに関する最新研究

1.ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは

 ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、手足や喉、舌や呼吸に必要な筋肉が動かせなくなる疾患である。海外では「ルー・ゲーリック病(アメリカ)」や「シャルコー病(フランス)」とも呼ばれている。
 ALSは、筋肉そのものの疾患ではなく、筋肉を動かし、運動をさせるための神経(運動ニューロン)に障害が生じる受ける疾患である。一般的には、運動ニューロン以外の機能である感覚や視力、聴力、内臓機能などは全て維持される。つまり、感覚や痛覚の麻痺ではなく、運動機能のみが失われる。それゆえ、ALSで動かなくなった腕でも触れられれば感触(や痛み)は認識できる。

 症状は、手足から現れ始めることが75%程度、口の中から現れ始めることが25%程度といわれている。どの部分から症状が現れるかは個人差があるが、どこから現れてもやがては全身の筋肉に広がり、最終的には呼吸に用いる筋肉(呼吸筋)が働かなくなり、多くの場合に呼吸不全で死亡する。
 発症から死亡までの期間は、人工呼吸器を用いて2年~5年程度である。ただし、人工呼吸器を用いることなく50年近く生きた事例もある。かつて「車いすの天才」といわれた理論物理学者のスティーヴン・ウィリアム・ホーキング博士がその例である。ホーキング博士は20代の頃にALSを発症したが、車いすやコンピューターによる合成音声を活用しながら76歳まで生活を続けた。

2.障害発生のメカニズム

 脳内で、たとえば「手を動かしたい」と考えると、脳内の運動神経細胞(=上位ニューロン)からその指令が神経線維(錘体路)を伝わり、脳幹あるいは脊髄で次の神経細胞(=下位ニューロン)に指令を伝える。この指令は、手につながっている下位ニューロンの神経線維を伝わって筋肉に到達する。ALSによって障害が生じるのは、指令が送られる下位ニューロンと、脳から指令が下りてくる上位ニューロンの両方である。この両方に障害が生じることで、筋肉が動かせなくなる。

3.ALSの疾患者・原因・治療法・発見方法

疾患者

 ALSの発症率は、全世界でみると10万人に2人程度といわれている。日本では発症率がやや低く、10万人に1人程度(約10,000人)となっている。なお、疾患者数は年を追うごとに増加している。
 厚生労働省の調査によると、1975年の患者数は416人だったが、1985年には1,714人、1995年には3,794人、2005年には7,302人と増加の一途を辿っている。増加の最大の要因は、高齢化である。65歳以上の人口が増加することで、それに連なり増加していると考えられている。ALSの発症は、50代~70代に多くみられる。
 発症を男女比でみると、女性よりも男性のほうがかかりやすく、比率は1:1.2程度である。

原因

 ALSの発症の原因に関しては詳細が不明で、ひとつの仮説としては異常な免疫細胞が運動ニューロンの死に関わっているという点が指摘されている。また、神経の老化との関連や、興奮性アミノ酸の代謝に異常があるとの説もある。
 他の細かな可能性を考えると、毒物やウイルス、ライフスタイル、あるいは他の環境因子の複合作用も挙げられるが、いずれも確証はない。

治療法

 治療の一環として、リルゾールという薬が用いられる。しかし、リルゾールは完治させるための治療薬ではなく、ALSの進行を遅らせる作用に留まる。現在、治療のための研究としてiPS細胞の研究や、生体信号などを用いた研究などがおこなわれている。

発見方法

 ALSの発症には多くの要素が関わるため、現時点ではALSと診断できる単一の試験はない。それゆえ早期発見が難しく、初期症状を見逃さないことが重要となる。もしも手足などの麻痺が治療開始から1ヶ月を経過しても改善されない場合は、神経内科(脳神経内科)に相談することが推奨されている。

4.ALSに関する最新研究

 2019年12月、慶應義塾大学と自然科学研究機構 分子科学研究所の研究チームは、ALSの発症に関わる銅・亜鉛イオン結合タンパク質SOD1について、その立体構造が異常化する新たなメカニズムを提唱した。SOD1をコードする遺伝子に変異が生じると、異常な立体構造をしたSOD1が運動ニューロンに蓄積し、ALSを発症させると考えられている。SOD1の構造がどのようなきっかけで異常化するかは明確ではないが、多くのALS患者にて酸化ストレスの増大と金属イオン動態の異常化が報告されていることから、ALSの発症メカニズムを考える上で重要な発見と考えられている。

【参考文献・参考サイト】
・難病情報センター「筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2)」
・TED-Ed「Why is it so hard to cure ALS? – Fernando G. Vieira」
・JALSA「ALSと診断されたら」
・JALSA「治療の進め方」
・田辺三菱製薬「ALSの現状と展望」
・医療NEWS「ALS発症に関わるSOD1、毒性の高い構造に変化するメカニズムを発見-慶大」
・慶應義塾大学「SOD1タンパク質が毒性の高い異常な構造を形成する新たなメカニズムを提唱-神経難病ALSの発症機序解明に期待-」

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