笑顔には、人を惹きつける魅力がある。
近年では、笑顔がもつ様々な効果の検証結果が報告されている。例えば、平均的な魅力の女性の場合、笑顔でいると男性から声をかけられる可能性が5倍になる。また、「感じが良い人」という印象を形成する要素を調査すると、「丁寧な対応」が5.1%、「挨拶」が24.3%に対して、「笑顔」が35.3%となっている。
コミュニケーションにおける何気ない笑顔は、情報の受信・発信の速度や量、親和性に大きな影響を与える。人間関係を円滑している社会の成功者たちは、いち早く笑顔の効果について述べている。
元ミシガン大学の心理学教授であったJ・マッコネルは、「笑顔を見せる人は、見せない人よりも経営・販売・教育などの面で効果をあげるように思う。笑顔のなかには渋面よりも豊富な情報が詰まっている」と述べた。
本稿では、そんな笑顔が話し相手や自身にどのような影響を与えるのかについてみていく。
1.笑顔が相手に与える効果
2.笑顔の度合いで効果は異なる
3.容姿に自信がなくとも、笑顔による効果は発揮される
4.愛想笑いよりも心からの笑顔に高い効果
5.笑顔の「顔面フィードバック効果」
6.笑顔の可能性
笑顔が相手に与える効果
笑顔は、さまざまな研究によって信頼や協力獲得を実現する要素として機能することが知られている。「最期通牒ゲーム」を用いた実験は、それを知る一つの例となる。
最期通牒ゲームは、報酬を2人でどのように分配するかという心理ゲームである。プレイヤーAは報酬配分の提案権(※例:1,000円のうち、A(自分)に700円、B(相手)に300円を分配するという決定権)を持ち、プレイヤーBは提案された報酬配分への拒否権を持つ。Aが自由に配分報酬額を決定できるが、その報酬額をBに提示し、Bが拒否した場合は2人とも報酬を失う。「提案⇒拒否」は、AとBがそれぞれ交互に行う。
提案権を持つ者は自分の取り分を多くしたいが、拒否権を持つ者は不公平な配分を拒否する可能性がある。合理的に考えれば、提案権を持つAは報酬が0ではない限り得をするため、「少しでも(=1円でも)得をする」確率を少しでも高めるためには、Bの報酬を自分よりも多くすればよい(例:Aに400円、Bに600円)。しかし多くの研究では、提案者が自分の報酬よりも相手の報酬を多く設定するケースは極めて少なくなっている。
このゲームを通じて行われた実験では、笑顔によって報酬を提示されたプレイヤーは、真顔で提示された場合よりも多くの獲得金額を得た。すなわち、笑顔で提示するプレイヤーに対して信頼が生まれ、提案を拒否しづらくなったことを意味している。(Scharlemann、Eckel、Kacelnik、Wilson(2001))
上記は海外で行われた実験であり、日本で行われた実験ではやや異なる結果となっている。日本においては、笑顔の送り手が女性の場合にのみ、笑顔の方が真顔よりも相手に信頼され、男性ではそのような傾向は見られなかった。これは、日本では男性は女性に比べて笑顔の表出頻度が少ないため、男性の笑顔は女性の笑顔よりも不自然に見られやすく、信頼性の判断に結びつきにくいからだと考えられている。(大薗・森本・中嶋・小宮・渡部・吉川(2010))
笑顔の度合いで効果は異なる
他の研究で、笑顔を3段階(笑顔・微笑・真顔)に分けて効果を測定が行われている。笑顔の送り手が女性で、笑顔の受け手が男性の場合、笑顔の女性に提示した金額が最も多く、次に微笑の女性に提示した金額が多かった。最も少なかったのは、真顔の女性に対して提示した金額だった。このことから、女性が男性に対して笑顔でいると、男性は女性に対して信頼を感じ、協力的になることが分かる。なお、この実験においても笑顔の送り手が女性で受け手も女性の場合には、笑顔の度合いが強くなっても提示額に変化はみられなかった。理由としては、女性は女性による笑顔を心からの笑顔ではなく、作り笑いや愛想笑いだと判断する傾向があるからと考えられる。(McKeown、et al(2015))
容姿に自信がなくとも、笑顔による効果は発揮される
笑顔の受け手がどれほど心を動かされるかについては、「笑顔or真顔」、「身体的魅力大or身体的魅力小」を組み合わせた4パターンの女性の写真を用いた実験で、日本人を対象として確認されている。
この実験では、笑顔のほうが真顔よりも依頼の受け手の協力への意欲が高まることが示されている。また、身体的魅力が小さい場合にも、笑顔のほうが真顔よりも意欲が高い結果となった。このことから、容姿に魅力がなくとも笑顔によって信頼や協力獲得が可能なことが分かる。
(身体的魅力が高い場合は、笑顔でも真顔でも受け手の意欲に変化がなかった。これは、身体的魅力の高さが対人評価に影響することで笑顔の効果が大きく現れなかったと考えられる。すなわち、美人であれば真顔でも笑顔と同様の効果が期待できることを意味している。)
愛想笑いよりも心からの笑顔に高い効果
笑顔には、2種類ある。「デュシェンヌスマイル」と「ノンデュシェンヌスマイル」である。(※「デュシェンヌ」は、19世紀のフランスの神経学者)
「デュシェンヌスマイル」は口や目の周りの筋肉活動が高く、目が笑っている心からの表情を指す。これに対して「ノンデュシェンヌスマイル」は、不自然な笑顔や社交辞令としての笑みを指す。成人男女のデュシェンヌスマイル(心からの笑顔)には、ヒトが美しさを感じる“黄金比”が現れることが確認されている。顔の比率に黄金比がある人は小顔で美しいとされ、美容整形などの目安ともなっている。心からの笑顔によって現れる黄金比が、笑顔の魅力を高める要因となっている。
笑顔の「顔面フィードバック効果」
笑顔は、それを見る者にだけ効果を与えるのではない。笑顔をつくった者にも効果をもたらす。最新の研究では、笑顔をつくる際の表情筋活動の生理的フィードバックが、主観的な感情の認知に反映されるという仮説の検証が進んでいる。笑顔をつくればそれがポジティブな感情を喚起し、眉間にシワをよせればそれがネガティブな気分を引き起こす。
笑顔の可能性
これまでにみてきたさまざまな実験結果をまとめると、以下のようになる。
・男性の笑顔は、女性・男性ともに効果があまりみられない。
・女性の笑顔は、女性に効果はみられないが男性に効果がみられる。
このことから、笑顔が相手に与える効果を期待できるのは、女性から男性に送られる場合に限られることが分かる。女性の笑顔とは、見る人(とりわけ男性)を幸せにするものであると同時に、判断力を奪うものであるといえる。
関連書籍
◆参考サイト
・笑顔による集団間バイアス是正効果の検討
・笑顔による集団間バイアス是正効果の検討 (2): 性別による検討
・依頼時における女性の笑顔表出の効果の検討
・笑顔の形状と表情筋活動の分析
・動的笑顔の印象と峡部・口元部の動きの関連
・集団間紛争の発生と激化に関する社会心理学的研究の外観と展望