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超能力・サイコキネシス・念力は実在するのか【超常現象の脳科学】

 誰でも一度は耳にしたことがある「超能力」や「サイコキネシス」、「念力」。手を触れずに物を動かしたり、自分に向かって飛んでくる物体を制止したりと、さまざまな能力がある。映画や小説でおなじみのこの能力が、はたして実在するのかと考えた経験は誰にでもあるかもしれない。

 ひと口に超能力といっても、その範囲は広い。相手の思考を読むテレパシーや、対象となる物体を炎上させるパイロキネシス、未来を言い当てる予知能力、物理的な障害を越えた先を観る透視など、その種類は多岐にわたる。

【目次】
1.超能力の学術的研究
2.証明への取り組み
3.「存在しない」とは言い切れない難しさ
4.念じることで離れたもの動かす力
5.結局のところ、「超能力」は存在するのか

1.超能力の学術的研究

 超能力やサイコキネシス、念力の存在を科学的な側面から評価する試みは、長い歴史を持つ。少なくとも、科学という概念が確立された19世紀頃には、すでに超能力の研究が始まっていたという見方もある。近現代史をみても、かつてのナチスドイツや旧ソ連、そしてアメリカなどが超能力の軍事利用を考え、研究を進めていたといわれている。
 日本では、東京帝国大学(現:東京大学)の助教授であった福来友吉(ふくらいともきち)が千里眼(透視)の研究に取り組んでいる。福来は、催眠術によって透視の能力を得たとされる御船千鶴子(みふねちづこ)とともに公開実験をおこない、透視能力の存在を証明しようとした。
(御船千鶴子は、ホラー小説・映画「リング」に登場する山村貞子の母親のモデルといわれている。)

 超能力は、心霊現象の研究である「超心理学」の一分野に含まれる。「超心理学」は、超常現象である透視(千里眼)やテレパシー、念力、予言・予知などを対象として実験・実証を目指す学術分野である。また、臨死体験、幽体離脱、転生、死者との交流や、霊媒、巫女、教祖といった霊能力者といわれる人々を観察することなどもおこなわれる。これらはいずれも、既存の科学では説明できない不可思議な現象を、心理学的な方法論や枠組みの中で研究することを目指している。もっとも、超心理学を疑似科学(つまり厳密な意味における科学ではない)と考える科学者も少なくない。  超心理学の研究を行う団体は国内外にあり、国内では日本超心理学会、海外では米国科学振興協会の関連組織である超心理学協会(The Parapsychological Association)などがある。

2.証明への取り組み

 超能力に関する逸話は、枚挙にいとまがない。「手を触れずに椅子を宙に浮かせた」「箱に入っている物を言い当てた」「念じただけでスプーンを曲げた」など、時代や場所を問わず、多くのエピソードがある。もっとも、その逸話の多さにもかかわらず、科学的な手法に基づいて超能力の存在が証明されたことは今まで一度もない。

 この現代社会でも、「超能力者」を名乗る者は多く存在する。しかし、彼らが準備をした状況でなければその「超能力」はたちまち発揮されなくなるという。そんな“曖昧な状況”を打開すべく、超能力を持っていると証明できたものに懸賞金を出す組織や団体も多く存在する。たとえば、奇術師であるジェームズ・ランディは、「$1million Paranormal Challenge」(100万ドル超能力チャレンジ)と称して超能力を証明できた者に約1億円の賞金を出すとした。これには述べ1,000以上が挑戦したが、賞金を手にした者は一人もいない。

 仮に超能力が存在していたとしても、それを「科学的に証明する」というのは困難である。なぜなら、超能力の存在を証明するための調査をする際、“証明のために何を測定するべきか”という点に関して科学者・研究者の間で共通した見解がないためである。測定すべきは脳波なのか、電磁波なのか、熱量なのか、音波なのか、研究者間で合意がないために、“何をもって超能力と呼ぶのか”という定義付けがなされていない。それゆえ、超能力を証明するためには、その前提として、研究基準を明確にする必要がある。

3.「存在しない」とは言い切れない難しさ

 科学の意義は、未知の出来事を発見することにある。これまでの科学の研究史を振り返ると、新しい発見がそれまでの定説を覆すということも多々あった。たとえば、かつては天動説が正しいものと考えられていたが、天動説は後に地動説にその地位を取って代わられた。  科学の世界では、その時点で正しいことが、必ずしも明日も正しいという保証はない。もっとも、これだけ科学技術が進歩した現代社会にて、既存の説を覆すことが容易ではないことも事実である。超能力の存在を裏付ける根拠を示すのであれば、それはいかなる疑いの目にも耐えられるような根拠や理論でなければならない。

 現代物理学の観点からみれば、ヒトの脳波は頭の外にある物体に作用するほど強力ではなく、それゆえ物体を動かすことはできないといわれている。既存の科学の枠組みで確認されていることは、遠くから物体に作用する力は「磁力」と「重力」のみということである。

4.念じることで離れたもの動かす力

 「超能力」の定義のひとつを「念じることで離れたものを動かす力」とするのであれば、この定義を満たすことは、現在の最新技術を用いれば不可能ではない。

 現代の科学で超能力に最も近いものを挙げるとすれば、それは「ブレイン・マシン・インターフェイス」(BMI)である。ブレイン・マシン・インターフェイスは脳の活動信号を計測し、その信号を解析することで外部の機械やコンピューターなどを直接制御する技術である。この技術を活用することで、たとえば手足の運動機能の障害を持つ患者の脳から出される運動指令を読み取り、義手や車いすを操作することができる。

 ブレイン・マシン・インターフェイスには、侵襲型と非侵襲型がある。侵襲型は、脳に電極を埋め込むことで神経細胞から電気信号を直接的に取り出すため、信号の精度が高いという特徴がある。その反面、埋め込むための手術が必要なことから身体への負担が大きくなる。また、取り出せる信号の範囲が狭いという欠点もある。
 これに対して非侵襲型は、脳の表面にセンサーを着け、外から活動情報を得る。この方法であれば、身体に負担をかけずに手軽に脳内の情報を得ることができる。もっとも、頭蓋骨を隔てていることから、侵襲型よりも精度が低いという欠点がある。

 こうしたブレイン・マシン・インターフェイスの研究は世界中でおこなわれており、現在ではインターネットを介して離れた場所にいるロボットを動かす技術も開発されている。この技術により、距離が離れたマシンを直接的に触れることなく操作することができるようになる。超能力(念力)の定義のひとつが「手を触れずに物体を動かす」であれば、これもまさに“念じるだけで物を動かすことができる能力”といえる。

5.結局のところ、「超能力」は存在するのか

 「超能力」と聞いて多くの人が思い浮かべるような能力の存在は、今のところ証明されていない。ただし、このことは必ずしも今後も証明されないことを意味しない。
 今後は最新の技術を駆使することで、超能力に似た能力を用いることができる未来は想像に難くない。また、最新の技術に頼らずとも、何かしらの“特殊能力”の存在が証明される日がくるかもしれない。

【参考文献・参考サイト】
・現代精神医学事典(弘文堂)
・脳と心のしくみ(新星出版社)
・国立国会図書館 本の万華鏡「千里眼事件とその時代」
・TED-Ed「Is telekinesis real? – Emma Bryce」