一般的に、人を殺めた場合には殺人罪が適用されると考えられますが、厳密にいえば場合によって異なります。 たとえば故意に人を殺めた場合は殺人罪が適用されます(刑法38条1項)が、暴行や傷害によって殺めた場合には殺人罪ではなく傷害致死罪が適用されます(刑法205条)。また、殺意や暴行・傷害の意図がなく殺めた場合には、過失致死罪が適用されます(刑法210条)。なお、故意だけでなく過失もなく殺めた場合には、罪に問われないこともあります(「違法性阻却事由」「責任阻却自由」)。
このように、「ヒトを殺める」という結果は、その主体(加害者)の内心がどのようなものであるかによってときに有罪となり、ときに減刑・無罪となります。
日本の刑法では、「心神喪失状態によって責任能力を有しない者は処罰しない 」 という旨が規定されています。そのため、刑法犯罪によって加害者が逮捕された場合、その責任能力の有無が焦点となります。責任能力の有無を確認するために行われるのが、「精神鑑定」です。
被告人の犯行時の精神状態や、裁判手続きを理解する能力に疑問がある場合には、警察や検察官などの依頼によって心理の専門家が被告人の精神的能力を鑑定することがあります。鑑定の結果によっては、被告人に訴訟能力がないと判断されることもあります。精神鑑定では、「精神異常」や「IQの低さ」、「詐病」などの要因に目が向けられます。
精神鑑定時の確認のポイント
精神異常
善悪を判断する能力がないと評価された被告人は、精神異常を理由に無罪となります(※刑法第39条第1項)。これに対して、不正を認識しながら犯行に及んだ場合は、法的に正常(責任能力がある)とみなされ、処罰の対象となります。
頭部損傷
頭部に損傷を受けると、人格の変化や判断力への悪影響、衝動的な暴力行為へとつながることもあります。場合によっては、情状酌量の余地があると判断される場合もあります。
無責任能力(心神喪失)
法廷での手続きを理解できないほどに精神的能力が損なわれている場合や、未発達であると判断された場合には、被疑者は訴追を免れることもあります。
IQの低さ
IQ(知能指数)が著しく低い場合、訴訟能力がないとみなされることがあり、起訴された場合の量刑判断にも影響を与えることがあります。
虚偽自白
誰かをかばうため、もしくは尋問や違法な拷問から逃れるために嘘の自白をする被疑者もいます。また、自分が罪を犯したと誤って思い込むことで虚偽の自白をする人もいます。そのため、自白が虚偽でないかという点が精査されます。
詐病
起訴を免れるために短期的・長期的な身体疾患や精神疾患を装ったり、その症状を誇張したりする被疑者もいます。そのため、詐病を疑うことも重要なポイントとなっています。
裁判では他にどんな心理学的な観点からの確認がある?
アメリカなどでは、陪審員の偏見を評価することがあります。これは、陪審員が証拠の内容にかかわらず特定の被告人を有罪と判断する可能性などを探るために行われます。また、裁判官は最終的な判断を下す前に、被告人の精神状態について心理の専門家に助言を求めることもできます。このように、陪審員や被告人の心理的側面にも触れることで、より公平な判決を下す制度が設けられています。
日本での動き
諸外国では触法精神障害者(=精神障害を患っており、法を犯した者)を強制的に施設へ入院させる処置制度などがあります。この点に関しては、近年になって日本でも触法患者の専門病院を建てるなどの進展があります。2005年には心神喪失者等医療医療観察法が施行され、重大な犯罪を行ったにもかかわらず刑事責任を問えない者の入院・通院治療を行える医療機関を整いつつあります。