【目次】
0.頭皮から脳までの構造
1.大脳・小脳・脳幹
・1-1.大脳
・1-2.小脳
・1-3.脳幹
2.前頭葉・頭頂葉・側頭葉・後頭葉
・2-1.前頭葉
・2-2.頭頂葉
・2-3.側頭葉
・2-4.後頭葉
3.その他の部位と機能
4.上丘(中脳)
0.頭皮から脳までの構造
頭皮から脳までの間には、外側(頭皮・毛髪)から内側(脳)にかけて骨膜、頭蓋骨、脳硬膜(骨膜層、脳膜層)、くも膜、脳軟膜がある。脳は主に、灰白質と白質で構成される。
灰白質や白質は「神経細胞(ニューロン)」や「グリア細胞(神経膠細胞)」などから構成され、神経細胞とグリア細胞にはそれぞれ異なった役割がある。
|神経細胞(ニューロン)
神経細胞は、「細胞体」「樹状突起」「軸索」で構成されている。この3つは一つの単位として扱われることが多く、まとめて「ニューロン」とも呼ばれる。
樹状突起は隣接するニューロンから送られてくる情報を受け取る役割を果たし、軸索は他の隣接するニューロンへと情報を伝える役割を果たす。軸索の先端は他のニューロンと結合しており、その結合部分は「シナプス」と呼ばれている。
眼や耳、口、鼻、肌などの感覚器官から取り込まれた刺激(=情報)は樹状突起を通じて細胞体に送られ、その情報の種類によって軸索から出力するか否かが細胞体によって判断される。細胞体が情報を出力する場合には軸索に活動電位を生じさせ、シナプスを介して隣接するニューロン(樹状突起・細胞体・軸索)に情報を伝える。こうしたニューロンのネットワークが、脳の活動の基盤となっている。
|グリア細胞(神経膠細胞)
脳を構成する細胞のうち、ニューロン(樹状突起・細胞体・軸索)以外の細胞は、グリア細胞(神経膠細胞)と呼ばれる。グリア細胞には「アストロサイト」「オリゴデンドロサイト」「ミクログリア」などがあり、それぞれが異なる役割を担っている。
・アストロサイト
グリア細胞の中で最も多い細胞であり、血管壁から吸収した栄養分をニューロンに供給する役割や、細胞外の過剰なイオンを除去することでニューロンを保護する役割を果たす。
・オリゴデンドロサイト
神経細胞のひとつである軸索を覆い、「髄鞘(ミエリン鞘)」をつくる役割を果たす。髄鞘は膜状で、電気を通しにくい性質をもつ。この髄鞘が軸索を覆うことで、情報の伝達速度は向上する。なお、軸索を髄鞘(ミエリン鞘)が覆うことをミエリン化という。
・ミクログリア
ニューロンを検診し、ニューロンが損傷している場合には修復を行う役割を果たすと考えられている。
|種(しゅ)の違いによる脳の違い
ヒトを含む全ての動物の脳は、神経細胞(ニューロン)によってつくられる神経回路を基盤としている。各動物の脳は基本的な構造を他の動物と共通のものとしながらも、種の違いによって異なる特徴を持っている。こうした脳の特徴の違いは、各動物が持つ能力や特性に現れる。たとえば、サメは嗅覚を司る「終脳」や平衡感覚・運動感覚を司る「小脳」が発達していることから、嗅覚が優れ、遊泳能力も高い。これに対してヒトの脳は、理性や知性を司る「大脳皮質」が発達していることから、言葉や計算、相手の気持ちを理解するといった人間らしい高度な精神活動や、高い思考力を実現している。種の違いによる脳や能力・特性の違いから、ヒトを含む全ての動物の脳は、進化の過程における種の分化の度に、脳以外の器官(=部位)と共進化してきたことが分かる。
1.大脳・小脳・脳幹
ヒトの脳は脳脊髄液という液体とともに頭蓋骨の中に収まっており、大脳、小脳、脳幹から構成される。重量は、成人で体重の2%程度の1.5kg前後、個人差がある。脳を形成するのは、主に「神経細胞」と「グリア細胞」である。神経細胞の数は生まれた瞬間が最も多く3歳頃までに急速に減少するが、神経細胞どうしのつながりはその後に広がっていく。
脳は主に炭水化物を分解したグルコース(ブドウ糖)をエネルギー源としている。身体の器官の中で特にエネルギーを消費する器官であり、全身の供給量の20%を消費している。
|1-1.大脳
脳全体を覆うように存在し、脳の部位で最も大きい。総脳量の85%を占め、思考や感情などヒトの人間らしい機能を司っている。表面は厚さ3mmほどの大脳皮質(灰白質)と、その内部にある髄質(白質)で構成される。
大脳皮質には原皮質、古皮質、新皮質があり、新皮質は大脳表面に並行に重なる第Ⅰ~第Ⅵ層(分子層、外顆粒層、外錐体細胞層、内顆粒層、内錐体細胞層、多形細胞層)で構成されている。
|1-2.小脳
大脳に次いで大きく、総脳量の10%を占める。身体全体の平衡を保ち、知覚と運動機能を司る。表面は細かなひだ状になっている。3対の小脳脚がそれぞれ脳幹の中脳、橋(きょう)、延髄と結びついている。
小脳は大脳に囲まれるようにして脳の後部に入り込んでおり、ニューロンの数は1,000億程度。大脳皮質の140億と比較すると、7倍ほどの多さである。小脳の溝(こう(※しわ))は大脳の溝よりも幅が狭く、2~3mmで規則的に入っている。そのため、表面積で比較すると大脳の75%程度となっている。
大脳皮質と小脳の間には、極めて密な連絡がある。小脳は、身体の微妙で精密な動きに不可欠な役割を果たす。身体の動きの指令は前頭葉後部から出されるが、その指令に従って個々の筋肉の動きの調整や順序、タイミングを調整するのは小脳である。また、そうした動きの記憶も小脳で行われている。使い慣れた道具の操作や楽器の演奏は、小脳が機能することで実現している。
ヒトの器用さ、例えば視覚運動協応も、小脳が視覚情報を処理する脳領域と連携することで可能となっている。言語に関しても、小脳が大脳皮質からの指令を受けて発声時の声帯や喉、舌や唇などの動きの細かな指示を筋肉に送っている。
|1-3.脳幹
中脳、橋(きょう)、延髄で構成される。脳の中央下部に位置し、生命の維持に関わる機能を司る。脊柱管内を通る脊髄へとつながっている。大脳との間に視床や視床下部などで構成されている「間脳」があり、広義には脳幹に含まれることがある。
2.前頭葉・頭頂葉・側頭葉・後頭葉
大脳は、中心溝と外側溝という大きな溝と、頭頂後頭溝を境に「前頭葉」「頭頂葉」「側頭葉」「後頭葉」の4つに分けられる。
|2-1.前頭葉
大脳皮質の容積の約30%を占める。思考や判断など高度な知的活動の中枢であり、運動を司る一次運用野などもある。
大脳では、神経細胞は皮のように薄い大脳表面の部分に詰まっている。前頭葉の前の部分は、前頭前皮質と呼ばれる。
前頭前皮質がどのような機能を担っているかは、近年まであまりよく分かっていなかった。脳の他の部位は同様の機能を持った部分が他の動物にもあるため、実験によってある程度の推測が可能だったが、前頭前皮質はヒトでのみ顕著な部分であることから、動物実験によって知ることは困難だった。(ヒトとして急速に進化した部位で、この600万年で6倍の大きさになった。)
近年では脳機能画像技術(fMRI、PET、MRG、光トポログラフィなど)の登場によってヒトでの脳活動の計測が可能になった。前頭前皮質の研究で分かってきたのは、自分が今していることを意識的にモニタリングする働きや、未来のことを順序立てて考える働きに関わっているという点である。複雑な計算を頭の中でするときや、囲碁や将棋で過去の手を思い出しながら先の手を考えるときなどに使われている。また、不適切な行動の抑制といった社会的な行動のコントロールや、共感や倫理的判断といった社会性に関わる処理も担っている。
|2-2.頭頂葉
痛みや温度などを感じる体性感覚野(皮膚感覚)がある。五感のすべてから集まった情報はここで処理・解釈される。体中の感覚受容器がこの皮膚に神経信号を送っている。
|2-3.側頭葉
音声を理解する聴覚野や文字の意味を理解するウェルニッケ野がある。記憶や嗅覚にも関わっている。
|2-4.後頭葉
一次視覚野があり、視覚や色彩の認識などに関わっている。視覚情報は最初にこの領域で処理され、色や動き、形が認識できるようになる。その後、他のさまざまな視覚野に情報が送られることでさらなる処理が行われる。
3.その他の部位と機能
|①前頭葉
|②辺縁葉(大脳辺縁系)
大脳の表面を占める大脳皮質の内側にあり、帯状回や脳弓、扁桃体、海馬などの部位で構成されている。扁桃体は感情を処理し、学習や記憶に作用する。海馬は短期記憶をつかさどり、長期記憶へと変化する際に役割を果たす。
|③中心前回
頭頂葉との境目である中心溝の前方部。
|④中心溝
前頭葉、頭頂葉を分ける深いしわ。「ローランド裂」とも呼ばれる。
|⑤中心後回
頭頂葉との境目である中心溝の後方部。
|⑥頭頂葉
|⑦脳弓
海馬と乳頭体をつなぐ神経線維の束。弓のような形をしている。
|⑧頭頂後頭溝
大脳の後部にあるしわ。頭頂葉と後頭葉を分けている。外側からは少ししか見えていない。
|⑨後頭葉
|⑩視床
視覚、聴覚、体性感覚など、嗅覚以外の感覚情報を中継する。
|⑪松果体
睡眠に関わるホルモンを分泌する、豆粒大の内分泌器官。
|⑫小脳
|⑬四丘体(中脳蓋)
|⑭第四脳室
脳幹背側および小脳腹側との間にあり、クモ膜下腔と連絡している。
|⑮中脳水道
シルビウス水道とも呼ばれ、第三脳室と第四脳室をつないでいる。
|⑯脊髄
脊柱管内に位置する。脳と全身を結ぶ神経の束を含む脳と脊髄の2つを合せて、中枢神経系という。
|⑰延髄
脳の最下部に位置し、中枢神経系の一部である脊髄へとつながっている。脊髄との明確な境界はない。呼吸、血管の収縮と拡張を司り、生体機能を制御する。
|⑱橋
多くの神経核が存在する。運動に関わる情報などを中継する。上橋溝、下橋溝という2つの溝で、上下の部位と区別される。上部には中脳が続く。
|⑲大脳脚
中脳の腹側面にある1対の太い繊維束。大脳半球深部に接続している。
|⑳乳頭体
形状が乳頭に似ている、視床下部の一部。記憶回路の一部として機能する。
|㉑側頭葉
|㉒脳下垂体
成長ホルモンをはじめとする、多数のホルモンを分泌する内分泌器官。
|㉓視交叉
2本の視神経が交叉し、それぞれ反対側の半球へ向かう場所。
|㉔視床下部
身体の自律神経と内臓機能、内分泌機能をコントロール。体温や体内の水分を調節し、基本的な行動反応に関わっている。
|㉕中隔(透明中隔)
|㉖脳梁
左右の大脳半球をつないでいる部分。神経線維が束になっている。前頭葉側の脳梁吻(のうりょうふん)、後部の脳梁膨大(のうりょうぼうだい)で構成される。
4.上丘(中脳)
脳幹を構成する組織の一部である中脳。その中脳の一部を構成するのが上丘である。
|1.内側毛帯
振動覚や識別触覚などの深部知覚を伝える経路
|⑮中脳水道
「⑮中脳水道」参照
|2.動眼神経核
|3.灰白質
神経細胞が集まった色の白い組織
|4.赤核
|5.動眼神経
|⑲大脳脚
「⑲大脳脚」参照
|6.黒質
関連書籍
【参考文献】
・ぜんぶわかる脳の事典(成美堂出版)
・大人のための図鑑 脳と心のしくみ(新星出版社)
・ヒトの心はどう進化したのか -狩猟採集生活が生んだもの